LGBT先進国アメリカ トランプで分断加速も未来は明るい?
オバマ時代に整えられた法制面の保護
変わったことといえば、10月26日に、マシューさんの遺灰が首都ワシントンDCにあるワシントン国立大聖堂に埋葬されたことが挙げられる。歴代大統領ほか、そうそうたる政治家の葬儀が行われてきた由緒ある教会だ。事件当時、彼の葬儀や裁判には、地元教会などが組織して「マットは地獄行きだ」などのプラカードを掲げた抗議者たちが押し寄せた。両親はマシューさんの墓がそうした人びとに破壊されることを恐れ、地元に埋葬できずにいたが、今年ついに、彼は安らかな眠りの場所を首都に得た。 その悲劇的な死により、とりわけオバマ前大統領の時代に、法制面でさまざまな動きがあった。特に有名なのが、マシューさん(および同じ年に車で引きずられて殺害された黒人男性)の名を冠し、2009年に成立した「Matthew Shepard and James Byrd Jr. Hate Crimes Prevention Act(ヘイトクライム防止法)」だ。これにより、性的指向を理由にした犯罪が「ヘイトクライム」と定義された。もっと詳しく言えば、ジェンダー、性的指向、性自認、障がいを理由にした犯罪すべてが連邦レベルでヘイトクライムに加えられた。 2013年には「女性に対する暴力防止法」(1994年成立)で、LGBTの人びとが「十分な保護を受けていない」ことが認められ、性的指向や性自認を理由に、暴力の被害者が支援サービスなどで差別されることを禁じる条項が追加された。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチで米国内のLGBT問題を担当するライアン・ソーレソン調査員は「LGBTの人びとを保護するためにまったく新しい連邦法を一から成立させるには、議会の舵取りが非常に困難です。そこでオバマ前大統領は、すでにあった各種保護法の対象に条項レベルでLBGTの人びとを加えることで変化をもたらしました。これは非常に画期的だったと思います」と評価する。