未成熟な社会への警笛-藤井浩人美濃加茂市長×中谷一馬衆院議員
変質する正義
【中谷】 拘束された状態で捜査機関が、自分たちの正義に基づいたストーリーに誘導して、社会的に喧伝すれば、たとえ潔白であっても、一般の人々はそういうものかと鵜呑みにしてしまいます。しかも、藤井さんの事件のときにはその誘導の仕方がかなり暴力的で、脅しすかしみたいなことが行われたと著書で拝読し、衝撃を受けました。 【藤井】 逮捕され、取り調べを受ける中で、学習塾をやっていたころの教え子にも捜査の手が及ぶと脅され、挙げ句、「美濃加茂市を焼け野原にしてやる」とまで言われましたからね。そのときはかなり動揺しました。ですが、取調官の立場からすると、それが「仕事」なんですよ。上司や現場の捜査官のメンツを保つためには、私を無実と認めるわけにはいかない。よって自白以外の答えは認めることができないので、否認する相手には自ずと暴力的になる。それはマスコミも同じです。私を取材していた記者は、「調べれば調べるほど藤井さんの無実は明らかだと思うんですが、デスクは絶対によしとはしませんし、僕らが警察への反論記事を書くことなんてできない。仕事がなくなるんです。分かってください」みたいに言われたことを良く覚えています。社会や自分の正義より、組織の正義が先に立つわけです。いかにも日本的だと感じます。 【中谷】 当初、世のため人のための正義だったものが、特定の組織や地位、立場のための正義に変わってしまうということは、残念ながらいつの時代の組織にも起こりうることなんでしょうね。 【藤井】 どこに自分が立っているのか、その立ち位置が正しいのか、ということを誰もがしっかり見つめ直さなければいけないと思いますね。
真に冤罪を撲滅するために
【中谷】 ここからは制度や仕組みをどう変えるかというお話をしたいと思います。 【藤井】 SNSが普及し、正しい情報とそうでない情報を見分けることが困難になっている中、罪をかぶせられたとき、精神的に強かったり、人間関係の支えがある人は相手に立ち向かえるかもしれませんが、いまの制度やシステムでは、たいがいの場合、救済の方法がないので、泣き寝入りすることが多いと思います。それはまったくフェアじゃない。そうした現状の認識がまず必要だと感じますね。 【中谷】 立憲民主党の話でいうと、23年6月、党本部の常任委員会で「ハラスメント対策指針」が見直され、ハラスメント救済の目的に明らかに合致しない申し立ては、ハラスメント対策委員会の判断で審議しないようにできる項目が盛り込まれました。合致しない例として挙げているのは、「虚偽の事実にもとづくもの」「特定の議員または候補者を貶めることを目的としたもの」「公認等または政策等の決定に関し特定の政治的目的を有するもの」「明らかに無秩序な申し立てである場合」。 これは、私の案件を含め、ハラスメントが政争の具に利用されてしまった事例がいくつもあったため、その反省の意味が込められています。ハラスメントが政治利用されることは真のハラスメントを受けた被害者の救済が困難となり、社会に重大な悪影響を与えてしまいます。本当に困っている人たちを助けるためには政治利用への厳正な対処は必要ですし、エビデンスに基づいてハラスメントが客観的に判断されるクリーン・フェア・オープンな仕組みが必要ですので、適切な対応を行うためにこうした指針改定がなされたのだと思います。ただ、政党組織の指針とは異なり、法律を作ったり改正するとなると、もっと大きな枠組みの話になるので容易にはいかないでしょう。 【藤井】 第三者が公正に評価し、それをオープンにしていく仕組みは重要だと思います。私が市民から信頼を勝ち得たのも、郷原弁護士が第三者として外に向かって説明してくれたことが大きく影響しています。自分の言いたいことだけ主張するのでは説得力がないし、違うところで痛いところを持っていると、そちらを責められて事件とは関係ないことで悪いイメージが広がることも充分ありえます。ですから、たとえば民事訴訟でも国選弁護人をつけられる制度を作ってはどうでしょう。あるいは弁護士じゃなく、人権NPОの専門家などでもいいと思います。