アクセンチュア予測「生成AI4つの革命」、労働の4割超と生活が激変するワケ
生成AIのインパクトが大きい職業、大幅に減少する仕事は?
オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーンが発表した『雇用の未来―コンピュータ化によって仕事は失われるのか』という論文を契機として、「AIに仕事を奪われるのか」といった議論が起こった。しかしながら、単純に仕事がなくなる/なくならないということではなく、各職業において働き方が変容すると考えている。もちろん自動化や半自動化も進むが、AIが人間の能力を強化することによってシナジーが生まれるのだ。 事務員、営業・販売、コンピュータプログラマー、経営・金融アナリスト・会計士、デザイナー・ライター・通訳・翻訳者などの言語タスクの割合が高い職業においては、LLMによる影響も大きくなるだろう。 デスクワークが中心であるホワイトカラーの業務は大きく変わる。いわゆる情報のリサーチや分析、資料やレポートの作成といった業務の付加価値は低下する。課題はやはり現場にあり、現場でしか得られない情報やリアルな対面コミュニケーションの付加価値が向上するので、我々はデスクワークからフィールドワークに移行することになるだろう。 五感を通じた経験を大事にして、解くべき課題を定義し、あるべき姿を考え問い続け、意思・情熱・共感をもってリーダーシップを発揮していく。そういった「人間らしさ」の価値は今後も失われないと筆者は信じている。
「生活が激変」生成AIの社会へのインパクト
生成AIのもたらす4つの革命や業界や職業への影響を踏まえて、私たちの生活はどのように変わるのだろうか。消費者としての私たちの未来の購買体験がどのようになるのか、具体的なイメージをみてみよう。 まずハイパーパーソナライゼーションが進み、生成AIにより顧客理解が深まり、消費者1人ひとりのニーズや趣味嗜好、気分など個人にあわせてマーケティングコンテンツが生成されるようになる。たとえば、会社帰りに最寄り駅に着いたタイミングで、「自分へのご褒美と家族へのお土産にアイスクリームはいかがですか? 今ならバラエティボックス4コ入りが15%オフ!」というようなクーポンメッセージが、家族のアットホームなイメージ写真と一緒に送られてきたらどうだろうか。 そして、店に入るとデジタル店員が話しかけてきてくれる。「〇〇さま、おつかれさまです。今日は近所の△△公園でカワセミがいたそうですよ」と、まるで担当の美容師のように1人ひとりの性格や嗜好にあわせた話題で接客してくれるのだ。 さらに「今日も、アレルギーを持つお子さま用の豆乳アイスを用意しています。好評だった限定の柚子のブランマンジェも〇〇さまのために取っておきました。だいぶお疲れのようですし、カルダモンパウダーをつけておきます」と、こんな具合に自分のニーズや体質、体調に合わせてカスタマイズもしてくれる。 「いつもの〇〇さまオリジナルノンアルコールカクテルもご入用でしょうか?」「じゃあ、今日は炭酸ビリビリでお願い」と答えると、その場で強炭酸水がつくられ、自分だけのオリジナルレシピのノンアルコールカクテルが完成。瓶には今回つくったドリンクにあわせたオリジナルラベルが貼られる。こうして、最終的には“個客”に合わせて一品モノの商品・サービス・体験を提供してくれる未来がくるのだ。 さらにハイパーデジタルヒューマンの変革が重なると、1人ひとりに対するデジタルバディ(AIエージェント)として、エージェント/アシスタント/執事/コンシェルジュ/パートナーのような存在が現れてくるだろう。それは“ドラえもん”もしくは手塚治虫の『火の鳥』に出てくる“ロビタ”のような存在かもしれない。自分の性格や趣味・嗜好のみならずこれまでの経験や価値観も含めて深く理解し、アシストしてくれる。 そしてデジタルバディは、個別の消費タイミング(=“点”)におけるレコメンドや最適化だけではなく、一生涯という“線”でサポートしてくれたり、家族や友人などのコミュニティ単位という“面”でサポートしてくれたりする存在となる。場合によっては自分以上に自分のことを深く理解して、自分の代わりにニーズを代弁してくれるかもしれない。さまざまなプロダクトやサービスを検索し、自分の価値観に沿って比較、評価して、代弁や交渉もした上で、最終的にリコメンドしてくれるのだ。 個人と最も近いデジタルバディ(AIエージェント)が、さまざまなプラットフォームや企業ごとのAIエージェントと密に“会話”することにより、業界の垣根を超えたプラットフォーム同士の連携が進み、個人にあわせた最適化が進むだろう。 たとえば、自分に合った旅行プランを現地での“個別”アクティビティーも含めてプランニングしてくれたり、車を買うときに複数の見積もりを取って交渉してくれたり、携帯の契約を変えて3カ月たったころに不要なオプションを解除するのをリマインドし、ライフステージが変わるときには自分に最適の保険をおすすめしたりしてくれる。 こんな存在ができたとき、あなたは旅行代理店やカーディーラー、保険会社に相談にいくだろうか? 何か困ったときにインターネットで検索することさえなくなるかもしれない。 こうして、個人をアシストするデジタルバディという存在が現れたときに、小売業界だけでなく全業界横断的に顧客起点で“流通”の破壊的イノベーションが起こっていく。衣食住に加えて、さまざまなプロダクトやサービス、体験、エンタメ、そして地域コミュニティやメタバースでの仮想グローバルコミュニティなど、消費行動のすべての領域で影響がでるだろう。 そして、生成AIの社会へのインパクトは経済活動のみに留まらない。人類にとって言語は文化そのものであり、結果として政治・教育・宗教なども含めて、人類の文化活動全般にわたって大きな影響が及ぶだろう。 今回は、生成AIがどのように社会に適用され、どれだけの影響を及ぼすのかについてみてきた。未来の目指すべき方向や目標、あるべき姿が、いわゆる北極星となり、皆さん1人ひとりのこれからの仕事や暮らしの中での道しるべとなることを願っている。次回の最終回ではこれまでの内容を踏まえて、未来への提言をする。
本稿は、2023年11月に刊行された書籍『生成AI時代の「超」仕事術大全』をもとに再構成し加筆したものです。
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 データ&AIグループ 堺 勝信