ネットアップの中島社長に聞く--ブロックストレージの勝算、VMware問題、日本のAI
--BroadcomによるVMware買収の完了から約1年が経ちます。Broadcom下の方針の転換に対して、VMwareを使用しているNetAppの顧客はどのように反応や対応をしていますか。 反応は企業によってさまざまです。多くの企業が慎重に状況を見極めている段階だと思います。 選択肢は、VMwareを継続するのか、違うプラットフォームに移行するか、クラウドに移行するかになるでしょう。混乱はありますが、仮想化環境を見直すあるいは次のステップをどうするのかを考えるきっかけになっているのではないでしょうか。どの道を選ぶのかは、自社のニーズや環境、状況により異なります。NetAppは、どの道を選択した場合でもしっかりソリューションを提供します。 --日本のAIの状況とNetAppの支援について教えてください。 グローバルと比較すると、やや慎重な傾向にあります。海外、特に米国やインドなどでは、積極的にAIを導入し、新しい分野を素早く開拓しようとする傾向が強いのに対し、日本は綿密なテストや投資対効果(ROI)の検討段階にあるお客さまが多い印象です。それでも、(日本企業の)AIへの関心は高く、多くの企業がAIの可能性を認め、どのように活用していくべきかを真剣に検討しています。 このような状況を踏まえてNetAppは、日本企業のAI導入をさまざまな形で支援しています。まず、AI導入のハードルを下げるために、テンプレート化を進めています。例えば、NVIDIAの「Superpod」認定を発表しました。これにより、高性能なAI基盤を迅速に導入できます。 また、AWS(Amazon Web Services)、Microsoft、Googleなどのハイパースケーラーとの連携により、それぞれのクラウド環境でのAI導入テンプレートを用意しています。これにより、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境でのAI活用も容易になります。 われわれは国内でAIの専門家を抱え、お客さまのAI導入プロジェクトを直接サポートできる体制を整えています。技術的なアドバイスだけでなく、業界特有の課題に対するAIの適用方法などについても具体的な提案を行っています。 技術面で付け加えると、NetAppはコンテナー技術でも強みがあります。AIの開発・運用にはKubernetesなどのコンテナーが重要な技術となりますが、NetAppはこの分野で長年の経験を持っています。実際、KubernetesのストレージインターフェースであるCSI(Container Storage Interface)の開発にも深く関わっており、オープンソースコミュニティーでも重要な役割を果たしています。 今回のイベントでは、「AI Engine」として、AIをデータに近づけるコンセプトを明確に打ち出しました。データをAIに持ち込むのではなく、AIをデータがある場所に持ち込むという考え方です。 多くの企業では、AIプロジェクトが既存のデータインフラから切り離されたサイロ状態になっています。しかし、ビジネス上の価値を生み出すためには、AIを既存のビジネスデータと密接に統合する必要があります。NetAppのソリューションは、このようなシームレスな統合を可能にします。 --イベントでは、セキュリティも重要なテーマでした。 セキュリティは現在、全ての企業にとって最重要課題の一つです。われわれは、この課題に対して「最後の砦」としての役割を果たすことを目指しています。 われわれのソリューションでは、AIを使ってサイバー攻撃を検知し、即座にスナップショットのバックアップを取得し、外部からアクセスされないようロックする機能を提供しています。これにより、万一ランサムウェア攻撃を受けても、数時間以内にデータを復旧することが可能です。実際に、ランサムウェア攻撃を受けたものの数時間で復旧できたという事例が多数あります。 セキュリティについて話す時は、日本市場が遅れているインフラのモダナイゼーションが重要になります。インフラのアップデートは、セキュリティの多くの問題を防ぐことにつながります。われわれの最新製品には高度なセキュリティ機能が標準で搭載されており、ワンクリックで有効化できます。つまり、設備を更新するだけで、セキュリティレベルを大幅に向上させることができます。 --今後の展望について教えてください。 われわれは“データカンパニー”として、お客さまのデータ価値の最大化を常に目指しています。この基本的な方針は今後も変わりません。しかし、技術の進化や市場のニーズの変化に応じて、われわれのアプローチも柔軟に適応していく必要があります。 当面の注力ポイントとしては、AI、セキュリティ、コスト最適化の3つが挙げられます。これらは現在、ほぼ全てのお客さまにとって重要度の高い課題だと認識しています。中でもAIに関しては、単なるツールの提供だけでなく、AIをビジネスプロセスに統合するための総合的なソリューションを提供していきます。「AIをデータに」のコンセプトをさらに発展させ、お客さまの既存のデータ資産を最大限に活用できるよう支援します。 日本でわれわれが提唱する「インテリジェントデータインフラストラクチャー」を体験できるエクスペリエンスセンターを設立しました。ほぼ毎日お客さまが来場し、NetAppのソリューションをテスト、体験しています。 また、サステナビリティー(持続可能性)への取り組みも重要な課題です。データセンターのエネルギー効率の向上や、環境に配慮した製品設計など、環境負荷の低減に向けた取り組みをさらに強化していきます。 ビジネスモデルの面では、従来のハードウェア販売モデルに加えて、サブスクリプションベースのサービス提供をさらに拡大していきます。Keystoneのような柔軟な消費モデルを進化させ、お客さまのニーズにより細かく対応できるようにします。 パートナーエコシステムの強化も重要な戦略です。現在約400社のパートナー企業と5000人以上の技術者コミュニティーを持っていますが、これをさらに拡大し、多様化する顧客ニーズに対応していきます。 (取材協力:ネットアップ)