仁科賞に市川温子東北大教授 T2K実験尽力、ニュートリノ研究で重要成果
原子物理学で優れた業績を上げた研究者を表彰する2023年度の仁科記念賞を、素粒子の一種「ニュートリノ」の理解を進めた東北大学大学院理学研究科の市川温子(あつこ)教授に授与する、と仁科記念財団(梶田隆章理事長)が発表した。ニュートリノを飛ばして変化をみる「T2K実験」を通じ、現在の宇宙が物質中心となっている謎の解明に尽力している。授賞式は12月8日に東京都内で行う。
授賞業績は「ニュートリノ振動におけるCP非保存位相角δ(デルタ)への制限」で、今月7日に発表した。138億年前の宇宙誕生時、素粒子には身の回りにある物質を構成する粒子と、一部の性質が反対の反粒子が同数存在した。しかし両者の性質が違うため反粒子がほぼ消滅し、現在は粒子ばかりが存在する。「CP対称性の破れ」と呼ばれるこの現象はごく一部の素粒子で証明されたものの、宇宙に現在ある物質の量を説明しきれていない。物質の最小単位である素粒子の一種、ニュートリノとその反粒子の反ニュートリノは、互いに性質が大きく異なるとの仮説があり、宇宙に物質があふれている理由を理解するための重要な手掛かりになると期待されている。
そこで、ニュートリノの性質解明を目指す「T2K実験国際共同研究グループ」が、茨城県東海村の実験施設「J-PARC」から295キロ離れた岐阜県飛騨市神岡町の観測施設「スーパーカミオカンデ」に向け、ニュートリノや反ニュートリノを発射する実験を行っている。市川氏は研究グループに設計段階から参画し、高度な技術を要するニュートリノの生成装置、測定装置の開発、データ解析で重要な役割を果たしてきた。2019年3月~今年3月に約500人からなるグループの実験代表を務めるなど、研究を主導してきた。
研究グループは、ニュートリノの一種であるミューニュートリノと反ミューニュートリノを発射。それぞれが電子ニュートリノ、反電子ニュートリノに変化する確率に違いがあり、性質が異なるのかを調べた。2009~18年の実験の結果、スーパーカミオカンデで電子ニュートリノを90個、反電子ニュートリノを15個観測したと、2020年に発表した。信頼度は99.7%。この結果は、CP対称性の破れを95%の信頼度で示すとともに、破れの大きさを大幅に絞り込む、世界初の画期的な成果となった。