「敵国の言葉なぜ学ぶの?」逆境の中でロシア語専攻の道を選んだ学生に聞いてみた ウクライナ侵攻開始時には高校生、周囲から冷たい反応も
下野江 防衛省専門職でロシア語をメインに使って仕事がしたいです。あるいはロシアや中央アジアと大きな取引がある商社に入り、少しでもロシア語を使って働けたらと考えています。 ▽「生かし方はいろいろ」「社会を良くしていく手段であること疑いない」 ウクライナ侵攻が始まった直後の2022年3月、神戸市外大のロシア学科教員が、風当たりが強くなるであろう在校生や卒業生に向けて出した声明が話題になった。 ロシア対ウクライナ、親ロシア対反ロシアなど、世界が「二項対立」で捉えられる状況に警鐘を鳴らし、相互理解や対話の模索が必要と指摘するもので、「ロシア語を学習することを無益なこと、恥ずべきことと思わないで」と呼びかけた。 今回、話を聞いた学生らは全員が同大学のロシア学科に在籍する。当時、声明の草稿を作った金子百合子教授(50)にこの2年を経て、改めて現状や思いを聞いた。 昨年、ロシア学科の新入生に志望動機を尋ねるアンケートをしました。今の1年生は侵攻後に入学を決めた学生たちです。彼らがなぜロシア学科を選んだのかが気になっていました。
侵攻前は、北方領土問題を中心に「日ロ関係を良くしたい」という学生が常にいました。日ロの将来に関する動機づけが、侵攻でどう変化するのか興味を持ちました。 アンケートの結果は前向きなもので、「ロシア側からウクライナ侵攻を見たい」「ロシア語を使ってウクライナ支援に関わりたい」といった回答が多かったですね。日ロやウクライナを交えた関係の中で「ロシア語の知識を社会に生かしたい」と明確な志望動機がある学生が増えた印象です。人に言われるわけでもなく、自らそんな志望動機を書いてきたのはうれしかったです。 ロシア語に限らず、新しい言語を学ぶことは、言語話者の背後にある文化や社会、価値観を学ぶ一つのドアが開くことになります。これは多ければ多いほど良いです。日本人が英語だけを知っている場合、日本ではない世界=英語の世界になります。英語圏とは全く違う、ロシア語圏の社会や文化を学ぶことは、自分の中の多様性に対する価値観や、何が普遍的で、何が相対的なのかを見極める手段になります。