救急車を呼んだ時の費用負担~新ルールが問いかける医療現場の窮状と課題
119番にダイヤルして救急車を呼ぶ。そんな経験をお持ちの方もあるだろう。三重県松阪市が、2024年6月から新しいルールを導入した。救急車を呼んで病院へ運ばれたものの入院の必要がなかった一部の患者から、病院が費用を徴収するというもの。そこには、ひっ迫する救急医療を守ろうとする苦渋の決断もある。
松阪市の導入したルール
三重県松阪市の「費用徴収ルール」は、松阪市内にある3つの基幹病院(松阪中央総合病院・済生会松阪総合病院・松阪市民病院)で始まった。この3つの病院は、重症の患者も受け入れる「二次救急」も担当しているが、救急車を呼んで運び込まれた患者で、症状やケガが軽く"入院しなくてもよかった"場合は「選定療養費」として、病院が7,700円を徴収することになった。ただし、交通事故に遭った人や紹介状を持っている人などは、費用負担の対象外となる。また、病院側の判断によっては入院しなくても徴収されない場合もあるなど、緊急性については個別判断になる。すなわち、救急車を呼ぶこと自体が「有料」なのではなく、運ばれた先の病院での対応となる。
「選定療養費」制度を活用
「選定療養費」とは何か?2016年(平成28年)から始まった制度で、総合病院の窓口などに掲示されているため、ご存知の方も多いだろう。紹介状なしで大きな病院にかかる場合に、負担することになる特別の料金、特別な"初診料"とでも言えようか、7,700円かかる。この「選定療養費」は、初期の医療はかかりつけの医師や地域の病院で行い、高度な専門的医療は大きな病院で行うという、病院の機能分担を目的としたものである。今回の松阪市の救急搬送ルールでは、病院におけるこの制度を活用した。
救急車の稼働数が際立つ
松阪市の消防本部は、松阪市、多気町、明和町の1市2町を管轄している。松阪市によると、救急車の出動件数が、2023年は1万6,180件だった。前の年から600件余り増え、20年前の実に2倍になっている。この出動回数は、全国の同じ規模の消防本部の中で、図抜けて多い。例えば、2位の埼玉県のある消防本部は1万658件、3位の長野県の別の消防本部は1万475件。松阪市で、救急車が呼ばれる数が際立っている。