救急車を呼んだ時の費用負担~新ルールが問いかける医療現場の窮状と課題
なぜ救急搬送が多いのか?
なぜ松阪市は、こんなに救急搬送が多いのか?市の健康づくり課に尋ねた。松阪市では3つの基幹病院の連携がうまく機能していて、1年365日、患者の受け入れ態勢を取っている。管内の救急搬送の実に96%を、この3つの病院で受け入れている。「必ず診てもらえる」という信頼感が、同時に「救急車を呼ぶハードルを下げているようだ」とのこと。2022年のデータによると、救急車を呼んで病院に運ばれた人の56.6%が入院の必要ない「軽症」だった。ちなみに「重症」は4%、入院が必要な「中等症」は37%。年齢別では、満65歳以上の高齢者が6割余りを占めていた。
救急医療現場がひっ迫
一般的に、救急車を1回運行すると、その費用は4万円から5万円かかるといわれる。救急隊は、原則3名で担当するため3名分の人件費、救急車を走らせる燃料費、医療の処置を行う費用など、これらは税金でまかなわれる。そして何より、松阪市によると、搬送体制や医療がひっ迫してしまい、このような状態が続くと「本当に救急医療が必要な、助かるはずの命が助からない」という。消防庁によると、通報を受けて救急車が到着するまでの平均所要時間は、2002年は6分ほど、それが20年たった2022年は10分を超えた。それだけ、救急車は大忙しなのである。
躊躇することへの懸念
今回の新たなルールで危惧されるのは、救急車を呼ぼうかどうかと躊躇することによって、救急医療が本当に必要な人への処置が遅れる可能性があるということ。また、経済的な問題があってお金が払えないと、救急車を呼べずに医療を受けられない人も出てきて、症状が悪化したりする場合もあるかもしれない。
町の医院や救急ダイヤルを活用
松阪市の担当者も、「救急車を呼ぶ」=「有料化」と短絡的に受け止められることを懸念している。松阪市の場合、救急車の稼働は日中でも多いため、昼間は、近所の医院やかかりつけ医を利用するように、また、急な病気やケガで救急車を呼ぶかどうか迷った場合、24時間365日対応の救急ダイヤルに電話してほしいと話している。それは「本当に救急医療が必要な人のために、救急車を適切に活用する」という目的のためである。 救急車が忙しすぎるという現状は、全国各地で起きている共通の問題である。命にかかわることも多い救急医療。本当に必要な人が処置を受けられるように、医療現場の模索も続くが、同時に、それを利用する私たちも、きちんと受け止めて考えたい重要なテーマである。今回の三重県松阪市の試みは、それを問いかけている。 【東西南北論説風(498) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
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