新入社員向け指南書「そんな会社なら辞めちゃえ!」【作家・鈴木涼美のコラム】
作家・鈴木涼美氏が自身の人生経験を踏まえて、鬱屈とした若者たちにエール!
合わない会社は相性の悪い恋人、尊重しつつ早めに離脱を
四月に学校を卒業したり、前の仕事に区切りをつけたりして新天地で頑張ろうとしている人はかなり多いように思います。期待が大きかったからか意外と地味な日常に落胆しているかもしれないし、気が重かったけれど入ってみたら割とちょろいなと感じているかもしれません。これからその職場で過ごす長い時間を考えて憂鬱(ゆううつ)になったりしていませんか。明日が、来週が、来年がくることを楽しみに感じられているでしょうか。水の合わない狭い部屋に閉じ込められたような苦しい感覚に陥ってはいませんか。
会社を辞めることに強迫観念を抱いていない?
各国と比べても日本は正社員信仰が未だに根強く、大きな企業に正規雇用されているということが何よりの社会信用につながるため、肌に合わない場所でもそのメリットを享受するためにしがみつかなくては、という気持ちになりやすい場所だと思います。 比較的有名な大学を出て、就活を勝ち抜いて企業に入ってみると、そのルートがあまりに自然で、そういう方法以外でこの社会をサバイブしているたくさんの人への想像力が働かないということはありませんか。このルートからドロップアウトしたら、自分は今後落伍者として一流ではない人生を歩まなきゃいけないとか、親が悲しむとか、若い人と話しているとそういう強迫観念が驚くほど社会にこびりついているのだなと実感します。
私も就職をして企業に入った頃は、何となくそれがメインストリームなのだという感覚を持っていました。ただ実際はこの世界、新卒一括採用などで仕事を続けている人たちの社会の外側にも、別に普通に楽しく生きている多様な人たちがたくさんいるわけで、それに気づいてしまうと、大きな殻に守られていると思っていたはずが、別に殻なんかなくても大した敵がいないのに、立場に固執する必要はないと感じるかもしれません。 少なくとも、適応に苦しんでまで肌に合わない場所にいなくとも、何とかなると個人的には思っています。