「月光仮面」のヒットの理由 子供たちはテレビの中に何を見つけたのか?
「戦いごっこ」の「中継」がまさに「月光仮面」だった
そして「月光仮面」は、映画館で観ていた鞍馬天狗のような勧善懲悪のヒーロー物がお茶の間で見られるという嬉しさに加えて、あの何ともスキだらけでルースな戦いの映像が、あたかも子どもたちが夕方の空き地で展開していた「戦いごっこ」の延長に見えたのではなかろうか。すなわち、当時〈現在〉の息吹きを伝えるニューメディアであったテレビの小さな画面のなかで、「月光仮面」は(実際はフィルム作品なのに)子どもたちの「戦いごっこ」の「中継」じみたものに映ったのではないか。その時、あの劣悪な制作条件からくる生っぽさもぎこちなさも、全てが「中継」のハプニングよろしく番組に味方したのではなかろうか。 当時の家庭のなかのテレビのありようを最大限にイメージトレーニングしてみると、そんな推論が浮かんできた。上出来の「ウルトラマン」は時を超えてなおその完成度に驚かされるが、「月光仮面」のクオリティはいかんせんそういうものではない。だが、この作品は放映当時、信じがたい人気を呼んだ。それは、このベンチャー作品が、わが国のテレビジョン草創期に生み落とされたという、時代との絶妙な出会い方をもって解き明かすほかないだろう。(完) (映画評論家・映画監督:樋口尚文)