日本経済の復活には欠かせない…「103万円の壁の見直し」がもたらす"手取りが増える"以外の効用
■バイトやパートの多くが「103万円の壁」や「130万円の壁」を意識 見直しを迫られている「年収の壁」であるが、これまで非正規雇用の就労行動に大きな影響を与えていたことがデータから確認できる。 総務省「就業構造基本調査」の最新2022年調査によると、パートやアルバイトなど非正規雇用2111万人のうち、就業調整をしている人の数は全体の約4分の1に相当する537万人に上っている。 そのうち、年収50万~99万円では46%の259万人が就労調整をしており、うち約7割の186万人は「配偶者あり」、約2割の53万人が学生とみられる「15~24歳」である(図表1)。また、年収100万~149万円では40%の186万人が就労調整をしており、うち85%にあたる158万人が「配偶者あり」だった。 こうした実際の就労行動から、学生アルバイトの多くで「103万円の壁」が意識され、配偶者のあるパートタイム労働者では「103万円の壁」や「130万円の壁」が強く意識されている様子が窺える。これらの「壁」は明確に存在していたと言えよう。 ■「年収の壁」見直しは日本経済復活の支えになる 以上の制度変更や就労状況の現状を踏まえ、「壁」見直しの効果について考えてみたい。国民民主党は、所得税・住民税の基礎控除と給与所得控除の合計103万円を178万円に引き上げたいとしている。 その根拠は、1995年から実質的に据え置かれている基礎控除などの水準を、その間の賃金上昇に応じて見直すべきだというものである。賃金ではなく物価の上昇に応じた幅にすべきだという指摘もあるが、所得水準に伴って最低限の生活水準も上がると考えるのであれば、一定の合理性はあろう。 いずれにしても、この通り見直しを行えば、給与所得が年間300万円であれば所得税・住民税合わせて11.3万円減少、500万円であれば15.0万円、1000万円なら24.4万円の減税となり、その分、手取り額は増える(図表2)。デフレ脱却に向けて個人消費主導の景気回復を目指す日本経済にとって、大きな追い風となろう。 ■「年収103万円の壁」の見直しだけでは不十分 また、就労調整の必要性が低下することで、追加的な労働力が捻出され、人手不足が緩和する効果も期待できる。 現在、就業調整をしている非正規労働者の平均労働時間は1日4時間(週20時間)程度とみられるが、これを1日5時間(週25時間)まで引き上げれば、労働力(労働投入量=就業者数×労働時間)は全体の約1%増加する。さらに、年収の「178万円の壁」に見合うと考えられる週27時間へ引き上げれば、労働力は1.4%増加する。