日本経済の復活には欠かせない…「103万円の壁の見直し」がもたらす"手取りが増える"以外の効用
配偶者控除が受けられるのは、年収900万円以下であれば基本的に38万円であり、年収が高いと控除は減り、1000万円を超えるとゼロになる。一方の扶養控除は、子供の年齢が16歳以上30歳未満で38万円、19歳以上23歳未満(特定扶養親族)であれば63万円に増える。 ただ、配偶者や子供の年収が103万円を超えると、これらは適用されない。例えば、年収500万円の世帯主の所得税・住民税は、配偶者控除により計7万6000円、特定扶養親族が1名いれば計12万6000円も軽減される。そのため、これらが失われるのは正に「壁」であろう。なお、配偶者控除については、配偶者特別控除が2018年に改定され実際には「壁」が150万円まで後退している。 ■会社規模で異なる社会保険料の「年収の壁」 こうした「年収の壁」は、社会保険料の支払いが生じ始める所得水準という形でも存在する。一つは「106万円の壁」、もう一つは「130万円の壁」であり、両者の違いは、勤務先の事業所の規模である。 前者は従業員51人以上、後者は50人以下なので中小企業をイメージすればよいだろう。前者の場合、残業代などを除いた基本給部分の年収が106万円を超えると、原則として社会保険へ加入する必要があり、社会保険料の目安は年収120万円で月1万3900円、年間で17万円程度となる。 そのため、仮に年収を105万円に抑えておけば、税負担はほとんどなく手取り額も105万円近くあるものが、年収106万円となれば、税引き後の105万円強から更に社会保険料が引かれ、手取り額は90万円程度になってしまう。 給料を1万円増やしたばかりに、手取りが15万円も減ってしまうので、明らかな「壁」である。「130万円の壁」も、金額が異なるだけで仕組みは同じである。 ■厚生労働省が「壁」撤廃を検討している理由 なお、こうした社会保険料を巡る「年収の壁」については、厚生労働省が撤廃を検討していると報じられた。 正確には、社会保険の加入条件である①週の所定労働時間が20時間以上、②所定内賃金が月額8.8万円以上(年額105.6万円)、③2カ月を超える雇用の見込みがある、④学生ではない、の4条件のうち、②の年収105.6万円以上という条件を撤廃するものである。併せて従業員規模による区別の撤廃も検討されている。 検討の背景には賃金の上昇がある。上記①の条件である「週の労働時間20時間」は、1カ月を4週間と1日(4.2週間)とすれば「月間84時間」となる。これに、2024年度の全国平均の最低賃金1055円を掛けると8万8620円となり、②の月額8.8万円を上回る。 つまり、賃金水準が上がってきたため、①の条件を満たせば多くの場合②の条件も満たしてしまう。さらに、今後も賃金の上昇が続けば、②の条件は近い将来、完全に不要になる。今回の厚生労働省の検討は、それを先取りしたに過ぎない。 重要な点は、その結果、社会保険に関する「壁」は、年収から労働時間に軸が移り、今後は「週労働20時間」が意識されるということである。