鹿島レジェンド本田泰人が森保Jを採点!|5発快勝は当然の結果。現状で伊藤涼と奥抜は代表レベルではない【タイ戦】
代表選手に必須なのは「味方に合わせる技術」
後半は低調だった前半と内容が一変。日本の攻撃陣が爆発した。最大の要因は、新戦力の伊藤涼と奥抜に変わって投入された堂安律と中村敬斗の存在だろう。 タイからすれば、前半は伊東とFWの細谷真大の突破をマークすれば良かったけど、堂安と中村が入って、攻撃にスピード感と連動性が生まれた。結果、タイのディフェンス陣が日本の2列目を捕まえきれなくなった。ダムの水が決壊したかのように、守備網が一気に崩れ、失点を重ねた。 なぜ堂安と中村が入っただけで、日本の攻撃は変わったのか――。 冒頭でも少し触れたように、伊藤涼や奥抜は味方選手の特徴を理解し、合わせるプレーを選択できなかった。だから、受け手や出し手との呼吸が一向に合わない。 日本代表には優れた技術を持つ選手のみが選ばれる。実力を示しながらも厳しい競争に敗れる選手もいれば、本領すら発揮できない選手もいる。 代表レベルになれば、技術に加えて「味方に合わせる技術」が大事だ。選手の特徴やタイプによって、プレー選択を変える必要がある。 日の丸を背負う人間は、サブも含めて全員の特徴を把握すべきだ。受け手がどんな選手かを理解したうえでパスの選択肢をキャンセルしたのか、理解していなくてその判断をしたのかでは、意味がまったく異なる。 後半は堂安、中村、伊東の3人が良い関係を構築していたし、南野拓実が入っても攻撃の連動性を継続できていた。彼ら代表常連組はいつも通りにプレーしただけだろうが、個々の個性を理解し合えているからこそ「違い」を作れる。 「相手を理解する」というのは、出し手だけでなく受け手にも言える。この観点で言えば、この日の細谷、佐野海舟にも合格点を与えられる。伊藤涼と奥抜は潜在能力の高さを感じたものの、現状は残念ながら代表レベルではない。それは川村拓夢、三浦颯太、藤井陽也も同様だ。 タイ戦の終了後、アジアカップを戦う日本代表のメンバーが発表されたが、受け手としての基準をクリアしていた細谷と佐野のふたりが入ったのも納得だ。 特に細谷はスピードと対応力が高く、常に背後を狙って相手の脅威となっていた。今後の成長も考えると、「1トップの2番手」ではなく「上田綺世のライバル」だと言っていい。本来、2023年JリーグMVPの大迫勇也が選ばれて然るべきだろうが、2年後の北中米ワールドカップを見据えていると考えれば、細谷の台頭は「大迫待望論」を少し払拭させたと言える。 佐野は、セカンドボールの回収や潰しが必要な場所に、常に顔を出していた。彼のスタイルは現役時代の自分に似ている。今後、代表に定着する可能性は高いだろう。 一方、田中碧の落選について賛否両論があるだろうが、個人的には理解できる。私が監督でも、彼は代表レベルに達していないと考える。 田中はタイ戦でもゴールを決めているし、これまでの実績を考えれば、本人も納得いかないだろう。だが、ボランチとしての能力を考えると、守備面に疑問符がつく。運動量は豊富だが、ポジショニングが甘く、対人の強度も決して高くない。 アジアカップの先にあるワールドカップ優勝という目標を考えると、特にボランチの選手には高い守備力が必須だ。伸びしろを考えると、私でも守備力に優れた佐野を選ぶ。 タイ戦の前半と後半の差は何か。繰り返しになるが、誰にでも合わせられる技術を持つ選手がピッチにいたかどうかだ。 受け手も出し手のタイミングを理解したうえでプレーを選択できること。それが、日の丸を背負う権利を得るための条件だ。その能力を持たない選手が出ると、タイ戦の前半のような出来になってしまう。 アジアカップを戦う選手には、日の丸の重みを感じさせるようなプレーを見せながら、3大会ぶりの優勝をもぎ取ってほしい。 【著者プロフィール】 本田泰人(ほんだ・やすと)/1969年6月25日生まれ、福岡県出身。帝京高―本田技研―鹿島。日本代表29試合・1得点。J1通算328試合・4得点。現役時代は鹿島のキャプテンを務め、強烈なリーダーシップとハードなプレースタイルで“常勝軍団”の礎を築く。2000年の三冠など多くのタイトル獲得に貢献した。2006年の引退後は、解説者や指導者として幅広く活動中。スポーツ振興団体『FOOT FIELD JAPAN』代表。
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