シリア・アサド政権で混迷深める中東情勢、リスク排除に注力するイスラエルの出方は
■模様眺めのロシア ロシアはシリア国内に軍事拠点を築いてきた。その中でも西部のフメイミム空軍基地、タルトゥース海軍基地は今後も継続して運営していく考えを明らかにしている。ロシアは2015年にシリア内戦に軍事介入し、アサド政権を支援してきた背景がある。 現在ウクライナ侵略によって十分な軍事力をシリアに投入できないロシアだが、シリアを通じて中東でのプレゼンスは今後も維持したいという思惑がある。クレムリンは、今後のシリア新政権の出方を見極めたい、といったところだろう。
シリアはイスラエルを国家として承認していない。イスラエルが建国されて以来、幾度となく戦火を交え、敵対関係にある。そんな中で、イスラエルがシリア国民に支援の手を差し伸べた知られざる活動がある。 それは後に「良き隣人作戦」(Operation Good Neighbor)と呼ばれることになった。そもそもは計画的に実行された作戦ではなかった。 2013年、内戦で傷ついたシリア市民7人がイスラエルの国境付近に近づいてきたとき、現場にいたイスラエル国防軍(IDF)部隊が地域の病院に搬送し、治療を施したことに端を発している。
シリア内戦は、国連のゴラン高原国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)へ危害が及ぶほどに激化し、1996年から参加していた日本の自衛隊も2012年に撤退した。 その後ロシアが軍事介入したことにより、戦いは熾烈を極めた。イスラエルとの国境付近の町クネイトラでは水道や電気が止まり、医療施設は破壊され、住民は絶望の淵に立たされた。 2016年6月、IDFは秘密裡に行っていたシリア国民への支援活動を本格的な作戦として始動させた。それが「良き隣人作戦」だった。
翌年7月まで公式に発表されることのなかった秘密の作戦だった。人道的観点からだけではなく、シリア人のイスラエルに対する敵対心を緩和させるという戦略的な狙いもあった。 イスラエルは野戦病院を設置し、増え続ける患者に対応した。この作戦はアサド政権がシリア南部を制圧した2018年9月まで続けられた。 2年あまりで1300人以上の子どもを含む4000人以上のシリア人に医療を提供してきた。ここで生まれた子どもも数百人にのぼるという。