「マイブーム」が自分の首を絞めることになった―みうらじゅんが不安をポジティブに変換させた“呪文”
「マイブーム」「ゆるキャラ」といった言葉の生みの親であり、イラストレーター・エッセイスト・ミュージシャン・映画監督など多方面で活躍する、みうらじゅんさん。コロナ禍で自宅や事務所で過ごす時間の中で、“依頼がない絵”を描き始めたと言います。コロナの収束を締切に設定して、仕上がりが想像できない絵を描く理由とは。そして、不安をポジティブに変換させる“呪文”や、人生の助けになる“もう一つのキャラ”とは。「こういうことを考えさせたら僕は天下一」――新しい感覚を生み出し続けるみうらじゅんさんの思考法に迫ります。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュースVoice)
コロナ禍で“依頼がない絵”を描き始めた理由
――みうらさんはコロナ禍で絵を描いているとうかがいました。 みうらじゅん: 僕の肩書きはイラストレーター“など”なんですが、実は自分の連載原稿に付けるもの以外、ほとんどイラストは描いていないんですよ。依頼がほぼない。「依頼されていないからって描かないなんて、何かおごってるな」と思って“依頼がないブーム”を起こそうと、「これは依頼しないでしょ」って言われるような絵を描こうと思いました。 家や事務所にデカいキャンバスを持ち込めるスペースはないので、小さな絵をつなげて完成させる絵にしようと思って、画材屋でF10号というキャンバスを買ってきたんです。締切はコロナが終わるまでと決めているんですけど、コロナが収束しないのでどんどん描き足していて、いま55枚までできています。だから今の全体タイトルは“コロナ画55(ゴーゴー)”です。でも、まだコロナは長引きますから、締切が延びるわけです。「俺にそんなに時間を与えちゃったら、どんなことになるか目に物を見せてやろう」と思って頑張っちゃうんですよね。
――どういった絵を描いているんですか? みうらじゅん: 「こんな走馬灯にしたい」というものを描いています。一時期、僕の中で“走馬灯ブーム”があって、死ぬ前に見ると言われている走馬灯を先に編集しておくのはどうかと思ったことがあるんです。走馬灯の上映は不意にやってきますから、編集しておかないと「え?こんな画像挟まなくていいでしょ」っていうこともあると思うんですよ。多分、頭の中に走馬灯製作委員会があって「子ども時代の一枚を入れておこう」とかなると思うんだけど、現実にあったことを並べるだけの走馬灯はいらないじゃないですか。嘘でもいいから、ポルシェを乗り回してモテモテだったとか、大学ではラグビーサークルに入っていっぱいタックル決めていたとか、そういうのも無理矢理入れてみようかなと思ってます。そしたら喜んであの世に行けるじゃないですか。走馬灯の中にこれ出てきたらいいなと思う絵を描くことで、自分の頭の中にインプットしていく作業です。今からだったらまだ、間に合うと思うし。 皆さんも、走馬灯の委員会を先に開いておくといいと思いますよ。現世で嘘をついちゃ良くないですけど、旅立つ手前くらい誰にも迷惑かかりませんからいいじゃないですか(笑)。