「マイブーム」が自分の首を絞めることになった―みうらじゅんが不安をポジティブに変換させた“呪文”
「不安タスティック!」陽気になる呪文を唱えて悲観しない
――コロナ禍などでさまざまな不安を抱える人がいると思いますが、みうらさんのようにポジティブに過ごすためにはどんなコツがあるのでしょうか? みうらじゅん: いや、僕の場合、マイブームが見つからないときが不安なんですよ。流行語大賞をいただいた97年以降は、毎週のようにマスコミの方から「今のマイブームは?」って聞かれてたもんですから「ゴムヘビですかね」とか頑張って言うんですよ。そしたら先方は「それは前にお聞きしたので別のマイブームを」って言う。マイブームって毎週あるものじゃなくてね、気が向いたら浮かぶことなのにね(笑)。本当、自分で自分の首を絞めることになってしまったんですよね。 だから、いつ何時でもマイブームを聞かれるんじゃないかという不安ですね。やっぱりそれなりに「どうかしてますね」っていうマイブームを言わないと許して貰えないでしょ?だから困ったなぁって思うんですよ。 でも、そんな不安なときは一度、鏡の前で「不安タスティック!」って言ってみるんです。そうすることによってね、「こんなことを言える俺はまだまだ大丈夫だな」って不思議と前向きな気持ちになってくるんですよね。なんなら不安を抱えている方が良いかもと思えたりもする。だから、今でも自分に呪文をかけるようにしています。 「そこがいいんじゃない!」という呪文もずいぶん昔から自分にはかけてきました。もし、つまらないですねって言われたときも「そこがいいんじゃない!」と唱えれば、そのつまらないことも肯定できて、さらに“つまんないからいい”と言葉の意味合いも変わる。こういうことを考えさせると本当、僕は天下一だと思っています(笑)。
“ひらがなの俺”に助けられている人生
――みうらさんは、本名をひらがなに開いたペンネームを使われていますね。 みうらじゅん: 僕、中学時代からエッセイスト気取りだったんですよ。頼まれもしないのに、期末テスト前にね、期末テストをテーマにした、それこそつまらないエッセイを書いてたわけです。その時にやはり、ペンネームがあった方がいいとなって、だったら「ひらがなの方がエッセイストっぽい」と思ってひらがなにしたんですよね。大好きな吉田拓郎さんがその頃、ペンネームをひらがな表記にされていたのも大きかった。 僕、その時から人格が二つになっちゃったんですよね。今、頑張ってふざけたことを言おうとしているブサイクな俺は“ひらがなの俺”なんですよ。“漢字の僕”は、プロデューサーでね、ひらがなの俺を使っているみたいな感じです。 ――人格が二つあることのメリットってどういったところにあるんですか? みうらじゅん: もう一人の人格があれば、自分を信用しなくて済むじゃないかと思って。互いが「俺、あいつを信用してないけど」っていうキャラ設定なんですよ。人間って、ついつい自分を信用しがちでしょ。 一度、漢字とひらがなの二つの人生を送ってみるのはお勧めします。芸名とかじゃなくてね。自分の中にもう一つのキャラを作ってしまえば、ずいぶん助かることも多い。 ――本来のご自身と、ひらがなのみうらじゅんのキャラを分けるようになったのは、そもそもいつからなのですか? みうらじゅん: 小学校の時から自分のキャラ設定みたいなのはあったんですよね。小学生の時、参観日に親に来てもらいたくなくなる日が突然来るじゃないですか。あれはやっぱり、学校と家でキャラが違うからなんですよね。 それに、京都にいた時と上京してからのキャラ設定は随分変えているので、上京後しばらくして郷里に帰ると、友だちに「お前なんか変わったなぁ」って言われるんですよね。「東京で変わっていくじゅんちゃんは見たくない」みたいに悪い意味で言われるんですけど、自分としてはキャラ設定を変えただけだったんですけどね。 一度の人生、キャラ設定はバンバン変えてもいいと思うんですよね。「前と言ってたことが違うじゃん」ってよく言われることもあるんですけど、その時と今とではキャラ設定が違っているんで自分でも信用ならないんです。キャラ設定のために生きているから、その時々で意見が変わっちゃうのは仕方ありません。だから、「あの話をまたしてください」って言われても覚えてない上に意見が変わってたりするのでガッカリさせることもあって。僕は長いことロン毛で、サングラスをかけてて、見た目は変わってないように見えるかもしれないけど、気持ちの設定がめっちゃ変わってるんですよ。あくまでひらがなの俺は商品ですから、そいつでどうするかだけを今は考えて生きているんですよね。 それで言うと、実は、そもそもそんなにコレクターでもないんですよ。コレクターと言われる人は、当時売っていた物をキレイな状態のままキープして高値がつくようにしていなけりゃなりませんが、僕はそんなことどうでもいい。ひらがなの俺に、誰が買うんだろうっていう物を買うという使命を与え続けてきましたので、旅先で出会った木彫りのブサイクなビーナスとかいらない物を買うことを面白がらねば。だからコレクターの方には本当、失礼な存在です。ひらがなの俺に「とりあえずくだらないことを頑張ってやるしかないぞ」という使命を課しているだけなんです。だから、ウケなかったときはまた、キャラ設定を変えていますよ。 ――みうらさん自身がキャラ設定するとき、気をつけていることはありますか? みうらじゅん: 他人をリスペクトすることがまず、大事ですよね。キャラ設定は自由だからといって、誰かを傷つけるのはもってのほかですから。 あと、自分の領域については突き詰めて考えることが必要ですね。行けるところまで行かないと面白みは出ないけど、だからといって他人のテリトリーを侵害してはいけない。 例えば、僕はこの仕事をはじめて41年くらい経ちますけど、いまだにプロという自覚がないんです。どのジャンルにおいてもバイト感覚だから、本職の方に失礼にならないように気をつけなきゃって思ってます。だから、そこの境界線を決めておいた方がいいし、状況に応じて引っ込むことも大事だと思います。若い頃はなかなか難しかったですけど、身の丈を知ることが一番の基本なんじゃないかなと老いるショッカーの僕は思いますね。 ----- みうらじゅん イラストレーターなど。1958年京都市生まれ。1980年、武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997年、「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞したほか、「ゆるキャラ」「仏像ブーム」を牽引。2005年には日本映画批評家大賞功労賞、2018年には仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。エッセイスト、ミュージシャンとしても幅広く活躍する。 文:清永優花子 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)