もはや日本は「景気後退」に入ったかもしれない「インフレで売上増」の“錯覚”も消えてきた
街角景気の調査である景気ウォッチャー調査と家計の調査である消費動向調査の乖離については、エコノミストの間では1つの謎となっていた。 しかし、データが蓄積されてきたことにより、この乖離の謎はほとんど解けてきた。結論を先に述べると、両者の乖離はインフレが理由である可能性が高い。両者の差とCPI(生鮮食品を除く財、前年同月比)を並べると、かなり近い動きをしている。 すなわち、インフレ高進局面(実質賃金の低下局面)では、家計の消費マインドそのものである消費動向調査は大きく悪化する傾向があるようである。
■企業サイドの「上方バイアス」 他方、景気ウォッチャー調査は企業サイドの調査であることによる上方バイアスがあると、筆者は考えている。 まず、景気ウォッチャー調査の回答企業が「インバウンド消費」も家計動向に含めてしまっている可能性がある。 また、インフレ局面では企業が「貨幣錯覚」に陥っている可能性もある。景気ウォッチャー調査のコメント集では前年と比べた売上高について言及されることが多いが、これらは名目値である。
回答者が経営者であればインフレによって売上高が膨らんだとしても景気が良いとは判断しないとみられるが、当該調査の回答者は現場の担当者が多い。結果的に、家計は実質消費が重要でも、企業は名目売上高を重視してしまっている(貨幣錯覚)可能性があるだろう。 実際に、景気ウォッチャー調査と実質消費支出は乖離が目立っていた。 これらを考慮すると、インフレやインバウンド消費の上方バイアスによって強めの推移となってきた景気ウォッチャー調査がついに悪化し始めたことは、やはり注目に値する。
■「インフレで好循環」を否定するコメントが散見 今回の景気ウォッチャー調査では、インフレ・ショック(ビッグプッシュ)によって日本経済をデフレ均衡からインフレ均衡へシフトさせる……という日銀の狙いが上手くいっていない可能性が高いことも示された。具体的には、下記のようなコメントがあった。 ここまで円安が続くと、一段とデフレマインドが増長するように思える。最近は見積りの段階で話が止まってしまうケースが増えてきている。高いので購入を断念したのか、もっと安い業者を探しているのか。売れなければ価格を下げるしかなく、利幅が少なくなる。地方の中小企業の現実はこのような状況である。