閉経前に更年期の症状が出たら、ホルモン補充療法(HRT)はやるべき?【我慢しないで快適に過ごす、閉経への道 ③】
ホルモン補充療法(HRT)は、女性ホルモンのエストロゲンを薬で補う療法。低用量ピルのおよそ10分の1程度のエストロゲンを、飲み薬や貼り薬、塗り薬などで補う。閉経前の女性には向くの? 向かないの? ホルモン補充療法に詳しい二人の産婦人科医師に伺った。
閉経しているいないにかかわらず、更年期不調があれば始め時です!
「更年期の入り口にいる人の不調ですね。個人差はありますが、閉経してからよりも閉経前のほうが症状が重い人は多いんですよ」と話すのは、女性の生涯にわたる健康推進活動に積極的に携わってきた産婦人科医の対馬ルリ子さん。 閉経していてもいなくても、卵巣の働きが低下していて更年期の症状があると医師が判断したら、それはホルモン補充療法(HRT)の始め時だそう。 「閉経は月経がこないことではなく、本当は卵巣年齢で判断すること。卵巣の状態は受診してみないとわからない。婦人科の医師が一緒になって考えてくれないと、自己判断は難しいですよね。 一般的にホルモン補充療法を始める理想的なタイミングは、閉経前から閉経した後の早い時期。閉経後10年以上たってから始めるより、健康上のメリットが大きいんです。 以前、乳がんのリスクが高まるとして、ホルモン補充療法の継続は5年まで、なんて言われていた時期も確かにありました。現在は、日本女性医学学会のガイドラインでも、期間に制限はないんです。何年続けてもいいの。 そして、がんのリスクも上がるより下がるもののほうが多いです。むしろホルモン補充療法によって、病気もリスクの下がるほうが多いしメリットのほうが大きい。それくらい常識が変わってきているわけです。 2021年11月から発売されている、天然型黄体ホルモン剤(エフメノ®カプセル)なら、長期間飲んでいても乳がん発生率はホルモン補充療法を行っていない人と変わらない、という研究結果があります。 ただ、残念なことに、保険適用の更年期治療は『説明に時間だけかかって収入にならない』ので、積極的に取り組まない医療機関も多いようです。ホルモン補充療法をしてみたい人は、女性医学学会専門医や、ホームページなどで治療内容にHRTを掲げている、更年期治療に前向きな医師をかかりつけ医に選びましょう」 《むやみに怖いイメージを持たないで。ホルモン補充療法は安全です》 そもそも日本人女性はピルさえも見たことのない人が多く、「ピルは避妊のためだけに飲む、危険な? 」ものだと思っている人がまだいるという。 「『ピルで月経は軽くなるし、体調もメンタルも安定するし、なんて楽なの!』ということを経験したことがある人は、ホルモン補充療法もやってみようと、わりとすんなり思えるようです。 なぜだかわからないけれど『HRTは怖い』『ホルモンは怖い』『乳がんになるんじゃないか』と、古い知識が邪魔してる。全員が乳がんになるみたいな勢いで怖がっている人もいますよね。 ホルモン補充療法を5年間続けた場合、乳がんリスクは1.28倍。わかりやすく言うと『1万人当たりに30人の乳がんリスクが38人に増える』という程度。それは飲酒など生活習慣による乳がんリスクと同じかそれ以下。ほとんど生活の中でのリスクと変わらないんです。 でも、心配と不安で思考が固まっているときにそんな説明をしても、全然頭に入っていかないんです。ずっと不安感とか焦燥感みたいなものがあってイライラしてるのに、数字なんて聞いていられないみたい。 クリニックに来ている患者さんによっては『あなたの場合、ホルモン補充療法をやってもリスクは全然低い。そもそも毎年検診をちゃんと受けてるんだから、まったく大丈夫よ~』って言うと、『そうなんですね、よかったぁ~』と、ホルモン補充療法を1カ月お試しすることになったりすることもあります。 自分のこととして言ってもらえると、やってみたいと思えるんです。そういうことを伝えながら、次回は漢方薬もやってみたりしてね」 そうすると「やっぱり漢方じゃいまいちです。漢方はこういうところがよかったけど、もう少しこうなるといいな」とか、だんだん意欲が出てくるそう。 「あれもこれもやってみたい。『ついでに院内の皮膚科で美容もやりたいです』みたいになるんです。美容までいくと、かなり調子がよくなった証拠。 更年期世代の女性は今、社会的な重要性が増しているし、医者のほうもきちんと更年期に向き合えるような環境が徐々に整いつつあるので、これが全国に広がるといいなと思いますね」