捜査員が激怒「これが危険運転でなければ、何が危険運転に当たるんだ」 酒を飲み時速140キロ、被害者を60メートルもはね飛ばしたひき逃げ犯は「過失致死」に問われた
具体的には、人を死傷させた事故で主に次のような点を満たす場合に危険運転致死傷罪が適用される。 (1)アルコールや薬物により正常な運転が困難な状態 (2)進行制御困難な高速度 (3)運転技能がない (4)妨害目的 ただ、「適用条件があいまい」「法律と一般感覚とが乖離している」といった批判は今も絶えない。 2021年、大分市内の県道で、当時19歳の元少年が法定速度の時速60キロを大幅に超える時速194キロで走行、右折車に衝突し、乗っていた当時50歳の男性を死亡させた。この時も元少年は過失運転致死罪で立件されたが、納得のいかない遺族は署名活動を展開。警察と検察が再捜査し、大分地裁は危険運転致死罪への変更を認めている。 ▽専門家の判断は? なぜ、神戸の事件には危険運転致死罪が適用されないのか。専門家に聞いてみることにした。元最高検検事で、交通事故に詳しい昭和大学医学部の城祐一郎教授は事故の状況に着目する。ポイントは「追い越し」だ。
「高速度で走行することで他人に迷惑が及んでもしかたないという考えで運転した場合の事故であれば、妨害行為での危険運転致死罪は成立するかもしれない。(今回の事故は被告が)車線変更をして追い越そうとしたら、被害者も同様に車線変更をしてしまった。被害者が車の進路に出てくることを予想していなかったので、妨害行為による危険運転致死傷罪の成立も難しい」 被告が時速140キロも出していた点については「追い越しの際に速度を上げることは誰でもすることであり、速度を上げすぎてもそれほど非難されることではない」 一方で、城教授は、過失運転致死罪でも重い刑罰を科すことはできると述べた上で、今回の司法判断について疑問を投げかけた。神戸地検は被告に懲役8年を求刑、神戸地裁は懲役7年の判決を言い渡し確定している。「とんでもない事件であり、法律上は15年まで求刑できる。神戸地検の求刑は軽いと言わざるを得ない」 専門家にもう1人、話を聞いた。立命館大学法科大学院の松宮孝明教授は検察の判断は「妥当」と理解を示した。「検察が条文を厳格に解釈した結果だ」とみている。厳罰化そのものについてはこう指摘している。「受刑者の社会復帰を遅らせ、出所後の再犯にもつながる」
【取材後記】 飲酒運転による事故が招く結果の重大性や悲惨さをどれだけ報道しても、飲酒運転がなくならない。今回の事件の遺族は、事故から1年以上たってもなお苦しみ、司法判断に納得できていない。その不信感は検察、そして裁判所へも向けられている。姉の玲さんは量刑の決め方にも憤りを感じていた。裁判所は過去の量刑を参照した上で判決を言い渡すが、玲さんは私にこう語った。「判例が大事なら、AIが判決を下せばいいじゃない」。玲さんは控訴してもらうべく、判決後も神戸地検へ出向き、当時の公判担当の検事に訴えたが、結局、控訴はされずに確定した。