捜査員が激怒「これが危険運転でなければ、何が危険運転に当たるんだ」 酒を飲み時速140キロ、被害者を60メートルもはね飛ばしたひき逃げ犯は「過失致死」に問われた
「最悪やないかい!このまま姫路行くわ!」と被告は叫び、女性には別の場所で落ち合うと告げ、車を放置して逃走した。 裁判記録によると、ほどなくして被告はパトロール中の警察官に見つかり、逮捕された。その後に検出されたアルコールの血中濃度は基準値の4倍以上だった。 ▽これが危険運転じゃないなら、何が危険運転なんですか! 法廷で傍聴していた私は、あまりにひどい状況に絶句した。同時に、なぜ被告の罪が「過失運転致死」なのか疑問に思った。これは危険運転ではないのか。なぜ危険運転致死罪が適用されないのか。 捜査関係者によると、兵庫県警は当初、危険運転致死容疑で送検しようと神戸地検と協議した。ところが地検は、立件は困難と判断。県警側は困惑した。ある捜査員は思わず「これが危険運転でなければ、何が危険運転に当たるんですか!」と、声を荒らげたという。 逮捕から10日とたたないいうちに、姉の玲さんは検事から「過失運転致死罪で起訴する方針」と告げられ、ショックを受けた。「検事には現場を見てほしかった。一つ一つの事件を重く受け止めて捜査してほしかった」
遺族側代理人の吉井正明弁護士によると、検察が危険運転致死罪での立件を断念したのは、被告が逮捕後の取り調べでふらつかずに立つことができたこと、事故までに蛇行運転をしていないことなどが理由だった。これに対し、吉井弁護士は「事故に至るまでの男性の行為やアルコールの影響を積み重ねれば危険運転致死罪で起訴できる」と反論。神戸地検に意見書を2回提出し、危険運転致死罪への変更を求めたが、判断は覆らなかった。 神戸地検関係者は取材に「個別事案には答えられない」と答えた。一方で一般論としてこう説明した。「危険運転致死罪を適用するかどうかは、アルコールの影響と、車両が高速度で制御困難だったかを、分けて考えた上で判断する」 分かるようで分からない説明だと思った。もう少し掘り下げてみたい。 ▽危険運転致死傷罪のはじまりと現在地点 そもそも、危険運転致死傷罪はどのような経緯で設けられたのか。 刑法では、車の運転による事故は「故意ではない」という前提で処罰されてきた。急速に自動車が普及し、飲酒運転が全面的に禁止されるようになったが、飲酒運転はなくならず、悲惨な事故も相次いだ。 やがて遺族たちが厳罰化を求めて立ち上がり、2001年に新設されたのが危険運転致死傷罪だ。その後の数度の法改正を経て、適用範囲の拡大や厳罰化が進んだ。