松尾潔・ジャニーズ性加害問題当事者の会解散に「この機会活かして」
その後は副代表の石丸志門さんが実質的に代表代行として活動を続けてきました。石丸さんは、道のりが真っすぐではなかったということを認めながらも、結果として認定、謝罪、補償、救済の実績を残すことができたと振り返っています。 一方で、この会に所属してない人たちも含めて、「いや、まだ道半ばであり、(解散は)これで終わったという誤解を招く」とデメリットを危惧する声も目立ちますし、僕もそう思います。こういうことはやっぱり終わりがないと思いますね。 旧ジャニーズという1社だけの話ではなく、こうした問題が起きたときに、日本のメディアが事務所に対して忖度してきたことや、事実を秘匿してきたとか、もっと言うとこの力学を悪用して視聴率獲得の具としてきたとか、いろんな醜悪なところが出てきました。僕からすると直視するのが辛いぐらいの問題です。 性加害者の立場に共感する心情は、僕にはもちろんありません。でも、加害者の近くにいてそれに加担した人たちを完全なる悪人として責められるかというと、「もし自分もそこにいたら、同調圧力の中で何かしら加担してしまっていたんじゃないか」という気持ちを、完全には否定できないという方も多いんじゃないかと思うんですね。 ■健全な発展のために自覚的になるべき問題 このことに関して、一橋大学大学院法学研究科の市原麻衣子教授が朝日新聞デジタルで興味深いコメントをしているので引用します。 市原さんはアメリカで大学院生活を送っていましたが、そのときにある著名な研究者から「ある研究成果に問題があると思ってもそれを指摘しないのは、学術的な腐敗である」と言われたことがあるそうです。 有名な研究者でも、親しい研究者でも、自分の面倒を見ている研究者であっても、その人たちの研究をきちんと批判的に分析しなければ、学術分野全体が正しく発展できないという指摘です。 市原さんも同調圧力という言葉を使ってコメントしています。「同調圧力」という言葉は、同調せよという周囲からの圧力に屈する、自分は犠牲者だと位置付けるような、弱い者の立場で使いがちですが、同調することを当然視する一人一人が、同調圧力を形成している加害者側でもあるということに自覚的になる必要があると述べています。