熱かった昭和の映画音楽 作曲家は黒澤明監督とも激しいやりとり
監督と信念のもとぶつかり合った作曲者たち
そして今作『風姿』は日本を代表するピアニスト山下洋輔と、次世代を牽引するピアニスト秋田慎治の DTM(デスクトップミュージック=パソコンを使用して音楽を作成編集する) とを織り交ぜたアルバムになっているが、タイトルは日本を代表する男優たちの凛々しい風貌にちなんでいるという。 「ジャケットの3人(三船敏郎、高倉健、菅原文太)の日本を代表する男優たちの主演作で私が感銘を受けた作品(『七人の侍』、『居酒屋兆治』、『仁義なき戦い』など)の楽曲の中からこれぞと考えるテーマ曲を選びました。彼らの風貌をモチーフとし、実力あるミュージシャンによって素晴らしい日本のオリジナルの楽曲を、今の時代に生きたものにしたい、そして日本人のアイデンティティーを表すことが出来れば、という想いです」 映画と音楽の関係性については、時代とともに変わってきた部分も感じるという。 「黒澤明監督と、作品中の音楽を担当された作曲者たちとの激しいやりとりのエピソードが残っており、相当な緊張感の中でお互いの確固たる信念のもと、ぶつかり合いながら作り上げたのだと思います。優れた能力がまさに『命懸け』の精神によって優れた作品として結実した……そんな作品が、今から少し前の時代には作られていたのだと思います。現在の日本はすべてがおとなしく、若さのみを追求していると思える型にはまってきているように感じます」 今後も棚橋さんはこれまで以上に音楽に対して熱い思いで取り組んで行きたいと目を輝かせる。 「10年ほど前から日本人の優れたミュージシャンによる、単に西洋の模倣とならない、日本人の感性で咀嚼し、音楽の生命ともいえる民族性が表れたものをと思い、年1作ぐらいのペースで制作を続けています。これからも音楽を愛する人たちとともにこの仕事を続けていきたいですね」 コロナ禍でさまざまなジャンルが影響を受ける中、音楽もまたライブをはじめ大きなダメージを受けている。こんなときこそ、音楽を愛する人たちが手塩にかけたアルバムの存在意義は大きいのではないだろうか。 (取材と文:志和浩司)