美容外科が、がん治療にまで進出...「免疫療法は最先端のがん治療である」という危険すぎる誤解
どこで診てもらうか、誰に診てもらうかで、文字通り運命が決まる。知っている人だけが幸せになれる、優れた医療の「条件」とはなにか―一流の医師たちが明かした。 【一覧】多くの芸能人が亡くなっている…注意すべきガン自由診療の言葉 特集『最高の病院 危ない病院』第2回特集『膵臓がんは「なぜこんなに怖い」のか?「早期発見」のスペシャリストに聞く「一刻も早く見つけるために最適な検査方法」』よりつづく。
美容外科が「がん治療」?
「3年前にNK細胞療法を受けました。一回の治療費は細胞培養の技術料が約30万円。他に血液の管理費として5万円ほど。計35万円の治療を3ヵ月かけて6回行いました。検査費用などを含めると250万円近くの出費です」 こう語るのは肺がんを患って、免疫細胞療法で有名な都内のクリニックで治療を受けた大山康太郎さん(72歳・仮名)だ。 NK細胞のNKとはナチュラルキラーの略。極めて強いリンパ球の一種で、これを体外で増殖、活性化させて体に戻すことで、がん細胞を攻撃するという触れ込みだ。 ところが6回1クールの治療後に検査してみると、肺がんは小さくなるどころかむしろ広がっていたため、大山さんは治療をストップ。その後、抗がん剤治療に切り替え、奇跡的に回復した。 こうした効果のはっきりしない自由診療や民間療法に手を出すがん患者があとを絶たない。自由診療の多くは、驚くほどの効果を喧伝している。しかし、その大半は到底、科学的とは言えないものばかりだ。
「免疫療法=最先端のがん治療」という誤解
がんの自由診療のなかでも、メジャーとされているのが、大山さんが受けた免疫療法だ。国立がん研究センターの若尾文彦氏が解説する。 「免疫療法はその名のとおり、自らの免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法です。しかし、その効果が証明されたものは本庶佑・京都大学特別教授のがん免疫治療薬『オプジーボ』などに限られています。この免疫チェックポイント阻害療法は保険適用もなされていますが、それ以外の免疫療法は、まだ充分なエビデンスがありません」 がん細胞は、もともと自分の細胞が分裂するなかで変異したもの。そのため、免疫系の一部であるT細胞には「自分自身を攻撃するな」というブレーキがかかっている。そのブレーキである「免疫チェックポイント」を外すのが、免疫チェックポイント阻害療法だ。 「この仕組みの発見で、本庶先生はノーベル賞を受賞しました。本来、これまでの免疫療法とはまったく違うものなのですが『免疫チェックポイント阻害療法』という名前が長いので、メディアなどでは『免疫療法』という言葉でくくられてしまいました。そこから免疫療法=最先端のがん治療という誤解が生まれているのです」 自由診療で行われている免疫療法は、自身のリンパ球をいったん外に出して増やし、また体内に戻すというものが主流。オプジーボとはまったく異なる仕組みだ。