元鳥取県知事の片山善博氏 部長時代に気付いた男女格差の「からくり」とは
中枢部の働き方改革で女性登用推進
――長時間労働に代表される働き方の問題が、女性登用の大きなハードルとして指摘されています。 「鳥取県では、短期間で働き方を変えるにはどうすればいいかを考え、私が知事に就任してから県庁の中枢部を男女共同参画にするという方針を出しました。一つは財政課です。予算の査定をするのはみんな男性で、徹夜で働くような状況だった。女性を配置するのは無理だというのが大方の見方でしたが、そもそも男性でも本当は無理な働き方のはずです。年間を通じて繁閑の差があったのを平準化したり、予算の要求から査定まですべてデジタル化して無駄な作業をなくしたり、徹夜で対応しなくても済むような対策を進めました」 「そうしてできるだけ残業を減らした上で女性職員の配置にこぎ着けました。ところが後から聞いたら、財政課の女性職員に予算の査定をお願いしに行くのが本当に嫌だったという男性職員がいて、顔を直視できなかったと言うんです。それでも嫌だけれど頼まざるを得ないから頼んでみたら、うまく予算を付けてくれたと。男性の仕事だと思っていたのが、女性に変わっても問題なかった。それが一種の成功体験のようになって、県庁内の意識をがらりと変える原動力になったと感じています」
どんなメンバーも力を発揮できる可能性を具体化する
――鳥取県は8年連続で地方公務員に占める女性管理職の割合が全国トップです。一方で、世界経済フォーラム(WEF)によるジェンダーギャップ指数の日本のランキングは下位に低迷し続けています。 「日本の国力が低下している一つの背景にジェンダーの問題があると見ています。だから変わらざるを得ないし、変わっていくのではないでしょうか。ジェンダーの問題も大きいですが、障害者や外国人、高齢者などのマイノリティーの方々、どんなメンバーであっても組織の中で一人一人が目いっぱい能力と意欲を発揮できる可能性を具体化する環境をつくらないといけません」 「性別などでカテゴリー別に扱わず、一人一人を見ることは組織の力になります。私の経験でいうと、鳥取県庁でデジタル化を推進するデジタル局の現局長は、私が知事時代の知事車の運転手の方なんです。車で移動中に話をしていて、デジタルにとても詳しいということが分かった。運転手も大切な仕事だけれども、県庁内でデジタル施策を担える人材を探していたので職種転換を提案しました。思わぬ才能の芽を摘まずに引き出すのは、経営層や管理職層にこそできることではないかと思います」 片山善博(かたやま・よしひろ) 大正大学教授・地域構想研究所所長。東京大学法学部卒業。1974年、自治省入省。鳥取県庁や国土庁への出向を経て、自治大臣秘書官、自治省国際交流企画官・固定資産税課長・府県税課長などの役職を歴任し、1998年12月に退官。1999年4月、鳥取県知事選挙に出馬し、初当選。2期を務めた。2007年4月、慶應義塾大学教授に就任。2009年10月から、行政刷新会議の議員を務めた。2010年9月、総務大臣に任命され、初入閣。2011年9月に退任し、慶應義塾大学教授に復職。2017年4月、早稲田大学公共経営大学院教授。2022年4月から現職。岡山県生まれ。 (聞き手は若狭美緒)