「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・柏木⑧ 道ならぬ恋に心を乱し、身を滅ぼしていいものか
■涙の涸れる時なく悲嘆にくれて 督の君の父大臣、母北の方は、涙の涸(か)れる時なく悲嘆にくれて、はかなく過ぎていく日々を数えることもなく、法事の法服、装束、そのほかあれこれの支度も、弟の君たちや姉妹たちがそれぞれに調えている。お経や仏像の飾りなどの指図も、督の君の弟である右大弁の君にさせるのだった。七日目ごとの誦経(ずきょう)についても、ほかの人が注意を促すと、「私の耳に入れるな。こんなにもつらいと親の私が悲しんでいては、かえって成仏の妨げとなってしまう」と、死人のように虚(うつ)けている。
次の話を読む:10月27日14時配信予定 *小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです
角田 光代 :小説家