【新時代のエネルギー】世界に追いつけ!長崎・伊王島に洋上風力の国際基準トレーニング施設 : 年間1000人の技能者養成
世界遺産の構成資産である長崎・軍艦島にほど近い伊王島に洋上風力発電の現場で働く技能者の訓練施設が開設された。軍艦島は炭鉱で栄え日本の近代化に大きな役割を果たした。石炭から石油・天然ガスを経て脱炭素の時代へとエネルギーの主役が入れ替わる中、伊王島はエネルギー新時代に求められる人材の育成拠点となる。
新エネルギーの担い手を養成
再生エネルギーの切り札として期待される洋上風力発電の作業に携わる人材を育てる「日本財団洋上風力人材育成センター」が長崎市伊王島町に完成、11日から訓練生の受け入れが始まる。
日本は風車を設置する遠浅の海が少なく、先行する欧州や中国に大きく後れを取ってきたが、風車を海に浮かべる「浮体式」の技術開発で巻き返しを図ろうとしている。政府は原発45基分に相当する45ギガワット規模の洋上風力開発を掲げる。同センターでは、建設や保守点検などに携わる年間1000人の技能者を育成し、人材面から脱炭素社会を支える。
海洋開発事業に取り組む日本財団が事業費を支援し、県と市、地元企業や教育機関が連携して運営に当たる。大都市への人口流出が深刻な長崎市は、風力事業による雇用創出に期待。鈴木史朗市長は「漁業や造船業など海とともに発展してきた強みを生かし、産官学が連携して“オール長崎”で取り組む」と力を込める。
国際基準の訓練、外国人材も積極的に受け入れ
センターでは、高所作業や万が一落水した際の対処方法、陸上から離れた施設での作業に不可欠な防火や消火などを学ぶ。2階建ての安全訓練棟には、天井クレーンや水深3.5メートルのプールを備え、救命いかだの操作や負傷者救護など実践的な安全訓練ができる。国際基準の認証を取得できる3日間と5日間のコースプログラムを提供する。全コースの英語での受講も可能で、「人手不足が深刻な建設業と同様に、洋上風力でも外国人材が不可欠になる」(施設長・松尾博志氏)と、海外からの受講生も積極的に受け入れる方針だ。
2025年度には機械や電気、油圧作業などの訓練ができる技能訓練棟を開設。さらに、26年度には沖合に洋上タワーを整備し、実際の海域でのアクセス船から風車への移乗や物資搬入などを想定した訓練が可能になる。 伊王島の南南西8キロの海上に浮かぶ端島(軍艦島)は2015年に国連教育機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つ。炭鉱の島として栄え、日本の近代化に大きな役割を果たしたが、エネルギーの主力が石油・天然ガスへとシフトし、1974年に閉鎖した。
それから半世紀を経て誕生した洋上風力の人材育成拠点が、さらなるエネルギー新時代に向けて大きな役割を果たすようになることを期待したい。 取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部