謎に包まれた戦国の刀工「高天神鍛冶」の秘密に迫ってみた!【掛川】
◆特徴的な「高天神」の文字
注目したいのは、茎(なかご)と呼ばれる柄(え)におさめる部分に刻まれている銘「高天神」の三文字です。 なかでも「神」の字の最後のタテ画が左上にハネ上がっています。後述する高天神兼明の関係者の方によると、これが高天神兼明がつくった刀剣の特徴だといいます。ちなみにもう片面には「兼明」の文字が刻まれています。 どちらの槍も間近で見てみると、すらりとしていて、美しく輝いています。 筆者は以前、刀剣をつくる原料のひとつ「玉鋼」の実物を見たことがありますが、鉄の塊からこのような槍を作るという職人仕事には感服します。刀剣好きの方はもちろん、刀剣に興味のない方でもこの2つの槍には目を見張るものがあると思います。 槍の撮影は普段は禁止されていますが、図書館の開館時にはいつでも見ることができます。 高天神城にまつわる展示品はほかに複製品の天目茶碗と小瓶、復元品の陣笠などがありました。大東図書館は高天神城跡から車で約10分と近い距離にあるため、併せて訪れるのもおすすめです。 ■スポット名 掛川市立大東図書館 郷土ゆかりの部屋 ■住所 静岡県掛川市大坂7152 ■開館時間 9:00~17:00、木は~19:00 ■休館 月 ■問合せ 0537-72ー1143
◆高天神兼明の「刀屋敷」を訪ねる
さて、あの槍をつくったとされる「兼明」とはどのような人物なのか。その謎を探るために兼明が刀剣をつくっていたとされる場所へ向かいました。 大東図書館が所蔵する「戦国史城 高天神の跡を尋ねて」(編者:藤田清五郎氏)によると、図書館から東に車で3分ほどのところに、その場所があることが分かりました。 高天神城跡から約3km離れた、田んぼやメロン・トマトの栽培ハウスに囲まれた一帯。兼明の時代から代々その土地に住んでいるのは深川家です。 深川玲子さん: ここは古くから「刀屋敷」と呼ばれていて、兼明は高天神城を今川家が治めていた時代に美濃から招かれてこの地へ来たそうです。兼明の名は初代から三代つづき、ここで刀鍛冶をしていました。また、三代目の兼明は武田家に仕え、武田信虎から虎の字をもらい、「虎明」と改名しています 先祖には高天神城の家老を務めていた人物もいると伝え聞いているのは、現在この土地に住んでいる深川玲子さんです。深川家は刀剣を作るため今川家に呼ばれた兼明を、深川の敷地にある屋敷に受け入れたと考えられています。 深川さんの所有地内にある「高天神兼明屋敷跡」の記念碑を訪ねました。田んぼのあぜ道を歩くこと50mほど。「市指定史跡 刀工高天神兼明屋敷跡」と書かれた白い標識と、石碑が建っています。 深川さんによると、1966年8月に日本美術刀剣保存会静岡県支部によって建立され、1975年頃に掛川市の文化財に指定されたとのことです。 近づいてみると、「刀工高天神兼明宅趾」の文字が見えます。つづいて「文学博士 薫山(くんざん)本間順治書」とあります。記念碑の文字を書いた方です。薫山とは日本美術刀剣保存協会の会長でもあった本間順治さんの雅号です。