社員に言われた痛烈な一言「あなたの評判、悪いですよ」 それでも会社を変えた次期社長、正社員登用者の感謝メッセージに涙
◆社員との距離を縮めて、風通しの良い会社に
――改革を進める中で、2021年以降の売上はどのように変わっているのでしょうか。 2021年が8億4000万円、2022年が8億5000万円、2023年が8億4800万円と、ほぼ横ばいでした。 そして、2024年は価格転嫁がスムーズに行えたこともあり、10億円を超える見込みになっています。 ――2024年の3月には中小企業庁が主催している、中小企業・小規模事業者の後継者による新規事業アイデアを競うイベント「第4回アトツギ甲子園」の決勝大会にも出場されました。反響はいかがでしたか? 社内外で、大きな反響をいただきました。 社外では大手自動車メーカーの方からコンタクトしていただき、セキネシール工業の技術力をアピールする場を作ることに繋がっています。 社内では当日に数十名の社員からチャットで「今日は頑張ってください」「応援しています」とメッセージをもらったんです。 少しずつですが、会社が1つになっている実感が湧いています。 ――どのような改革が実を結んだと感じていますか? 私自身が最も大切にしていたのは、社員ひとりひとりに向き合うということでした。 今は半年に一度、必ず全社員との面談を行うようにしていますし、社員のプロフィールもしっかりとメモしているんです。 最初の組織改革はトップダウンで行ってしまったために、反発が大きかったのだと思います。 社員との距離が近くなり、組織がどの方向に進むべきなのか、みんなで議論してきたことも、今の状況に繋がっているのではないでしょうか。
◆「空飛ぶ車」に自社のガスケットを使いたい
――セキネシール工業の製品で、今後どのような新規事業を考えているのでしょうか。 セキネシール工業が造る「ガスケット」とは、液体や気体の漏れを防止するために、部品の接合面に挟み込んで使用するシール部品です。 製造には伝統的な和紙づくりの技術を活用しています。 和紙は、原材料を混ぜ合わせ、均一にしてシート化する「紙すき」の技術で造られています。 この原材料を混ぜ合わせる過程で、出来上がる紙に様々な特長を与えることができます。 例えば、電気を通す紙を造りたければAという材料を、熱に強い紙を造りたければBを混ぜる、といったように、お客様のニーズに合わせた製品を生み出せる開発力と、今までに蓄積しているノウハウが当社の強みになります。 EV(電気自動車)の普及で、残念ながら自動車のエンジンは、今後需要が下がっていくことが考えられます。 それに伴って、ガスケットの需要も少なくなっていくことは確実です。 そんな中、「特殊な原材料を混ぜ合わせて、シート化する」という技術を使って、お客様の要望に沿った新製品を提供していくつもりです。 例えば、EV用の部品では、熱をシャットアウトする断熱材や熱を逃がす放熱材、電気をシャットアウトする絶縁材など、「熱」と「電気」をキーワードに、新しい材料開発も進めています。 さらに、その先の技術革新も見据えていかなければなりません。 いつか空を飛ぶ車などの次世代のモビリティが開発されたときに、私たちが造るガスケットが当たり前に使われているような未来を描いています。 ――未来のために、今のセキネシール工業に必要なものはどういったものになるのでしょうか。 まずは営業力、そして開発力です。 その2つの力を高めた上で、最後に必要なのは生産体制を確保する生産力だと思っています。 3つの力を軸にして、社員が一丸となって、世界に誇れるような会社にしていきたいですね。
■プロフィール
セキネシール工業株式会社 代表取締役社長 関根俊直氏 1988年7月、埼玉県比企郡小川町生まれ。2011年に中央大学商学部を卒業後、アイシン精機株式会社(現在の株式会社アイシン)に入社。2016年1月に株式会社ビズリーチに転職し、営業や社内人事の仕事に携わる。2020年1月、セキネシール工業株式会社に入社し、営業、人事、社内のDX推進を担当し、2024年1月より現職。
取材・文/庄子洋行