【最短相続を実現するために】“実家に帰って戸籍集めに奔走”の苦労から解放してくれる「広域交付」「コンビニ交付」など、戸籍取得を迅速に終わらせる制度
手続きが膨大で面倒──相続にはそんなイメージが付きまとうが、最近になって簡単に済ませる新制度が次々に登場し、それらをうまく活用すれば劇的に簡潔になる。「最短相続」を実現する制度活用術を解説する。 【表】数か月かけて本籍地を駆けずり回る手間を省く 「戸籍取得を迅速に終わらせる制度3」
「とにかく書類集めに手間と時間がかかった」 相続を経験した多くの人はそう口を揃える。 相続手続きでは、戸籍謄本や住民票、遺産に関する書類、印鑑証明などの膨大な書類をかき集めなくてはならない。 なかでもこれまで煩雑を極めたのが、亡くなった人(被相続人)の戸籍謄本を揃える作業だ。 相続手続きでは、被相続人と相続人との関係を証明するために「戸籍謄本」が、被相続人が死亡した事実を証明するのに「除籍謄本」が必要となる。銀行の手続きや不動産の名義変更、相続税の申告など、相続手続きの多くの場面で要求される書類だ。 昨年、父を亡くしたAさん(65)は、相続した銀行口座を払い戻ししようとしたが、父の出生から最後まですべての戸籍謄本と除籍謄本が必要だと銀行窓口で告げられた。 「まずは本籍地の自治体に請求して現物を取り寄せました。ところが父は転勤族で引っ越しが多く、そのたびに本籍地を移していました。取り寄せた戸籍謄本を見てその前の本籍地を確認し、その自治体に請求をかけて、また次の本籍地を遡り……を繰り返し、戸籍集めだけで2か月かかりました」(Aさん) 東京国際司法書士事務所代表でこれまで相続や借金に関して1万人以上の相談を受けてきた司法書士の鈴木敏弘氏が言う。 「本籍地の役所に出向いてその前の本籍地を教えてくれればいいですが、役所によって対応はまちまち。これまでは相続人が自ら辿って戸籍を集めなくてはなりませんでした」
最寄りの役所で完結
だが、2024年3月にスタートした戸籍謄本の広域交付によって状況が一変した。 「広域交付は本籍地以外の市区町村から被相続人の戸籍謄本・除籍謄本を受け取れる制度です。 この制度により、本籍地以外の市区町村でも被相続人の戸(除)籍謄本を受け取れるようになりました。被相続人の本籍地が複数にまたがっていても最寄りの役所ですべての戸籍謄本をまとめて入手できます。本籍地がある自治体に申請する必要はありません」(鈴木氏) 自治体によるが申請から受け取りまでの期間は最短で即日。Aさんのように、数か月かけて本籍地を駆けずり回る必要はなくなったのだ。 ただし、広域交付に対応するのは電子データ化された戸籍謄本のみ。概ね昭和30?40年より前の戸籍謄本はまだ電子化されておらず利用できないことを覚えておきたい。 「戸籍謄本の広域交付を利用できるのは子供のほか、被相続人の配偶者と父母まで(被相続人も生前に取得可)。本人の兄弟姉妹や弁護士、司法書士などの第三者は利用できません。被相続人が生きているうちに自分の戸籍を集めておくと、後の手続きがスムーズに進みます」(鈴木氏) 近い将来、さらに便利になる可能性がある。全国の自治体で進むのが、コンビニでの戸籍謄本取得だ。 「マイナンバーカードと連動させたサービスです。現状では原則として自分の戸籍謄本しか取得できませんが、将来的には広域交付の仕組みと連動して、相続に必要な被相続人の戸籍謄本をすべてコンビニで取得できることが期待されます。 また、現在総務省とデジタル庁が組んで、戸籍謄本の『電子交付』を検討しており、2024年度中に制度の詳細を決めるとしています。インターネットを通じて申請し、電子化された戸籍謄本がスマホやパソコンに届く仕組みを想定しているようです」(鈴木氏) 近い将来、戸籍集めは外に出ることなく終わるかもしれない。 ※週刊ポスト2024年10月18・25日号