イスラエルとパレスチナの「仲直り」のために実は日本が尽力してきたこと
パレスチナとの融和に舵を
私は、今回の視察でガザに行くことを計画していたのだが、直前に事態が緊張したため、中止せざるを得なかった。JAIPには難題が山積しているし、ガザでもまた衝突があって、私はやや悲観的な気分になっていた。そういうときに、国連中東和平担当特別調整官のニコライ・ムラデノフ氏と会った。彼はとにかく忙しいという。 「何が忙しいかわかるか? とにかくしょっちゅう事件があるんだ。それを飛んで行って、拡大しないように説得して押さえ込む。その連続で大変なのだ」という。そしてJAIPのことを激賞してくれる。あれが希望だ。あれがあるから前に進めると、こちらが恐縮するほど褒めてくれた。 それにしてもイスラエルのパレスチナ圧迫はひどい。パレスチナの若い世代は将来に希望をなくして、国外に出て行きたいと思っている。次はパレスチナとの融和、パレスチナ人の生活向上に舵を切るべきではないか。 【付記】2023年10月のハマスのテロに対しイスラエルは激しい反撃を加え、国際世論は変わりつつある。アラブ諸国のイスラエル接近にブレーキがかかり、アメリカのイスラエル支持も全面的ではなくなっている。24年アメリカ大統領選挙の結果、どうなるか予測は困難だが、イスラエルの一方的な勝利は難しくなっている。 ※本記事は、北岡伸一『覇権なき時代の世界地図』(新潮選書)に基づいて作成したものです。
北岡伸一(きたおか・しんいち) 1948年、奈良県生まれ。東京大学名誉教授。国際協力機構(JICA)特別顧問。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、国連大使(国連代表部次席代表)、国際大学学長、JICA理事長等を歴任。2011年、紫綬褒章受章。著書に『清沢洌 日米関係への洞察』(サントリー学芸賞受賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党 政権党の38年』(吉野作造賞受賞)、『国連の政治力学 日本はどこにいるのか』『外交的思考』『世界地図を読み直す 協力と均衡の地政学』『明治維新の意味』など。 デイリー新潮編集部
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