Z世代は知らないあの頃の日本がここに…『踊る大捜査線』から感じる古き良き“平成の香り”
平成レトロとしての『踊る大捜査線』
他にもWi-Fiなんてない時代だったため、ダイヤルアップ接続でめちゃくちゃ分厚いPCを繋いだりするシーンなどもあるが、一つ言えるのはそれが当時の最新だったのだ。今となっては懐かしい描写ばかりだが、『踊る大捜査線』シリーズは当時の“最新”を積極的に描いていた印象がある。だからこそ失われた平成の映像資料として、価値のあるものになっているのではないだろうか。 例えば同作には、当時人気だった芸能人たちがゲストキャラクターとしてちょくちょく登場する。TVシリーズ第6話に出演した篠原ともえは、その個性的なファッションと強烈なキャラクターが世間にウケ、90年代後半に活躍。彼女のファッションを真似する「シノラー」と呼ばれる女性たちが続出し、一大ムーブメントを巻き起こした。 また脱力キャラから繰り出されるあるあるネタで当時ブレイクしたつぶやきシローも、第9話に出演。同ドラマのゲストキャラを見れば、当時どんな芸能人が人気だったのかわかるかもしれない。 さらに張り込み捜査を描いたエピソードでは、張り込みをする刑事の暇つぶし用アイテムとして「たまごっち」が登場した。これも当時の最新文化。1996年に発売された携帯ゲーム「たまごっち」は、入手困難で数万円のプレミア価格がつくほどの社会現象となっていた。現代では何やら「たまごっち」のブームが再燃しているという話もあるが、やはり当時の熱狂はその比ではなく、ゲームという枠を越えてある種の“ファッション”として若者文化に根付いていた。 モノや人物だけでなく、当時広まり始めていた「オタク」や「ストーカー」といった言葉も、エピソードの中で使われている。オタクとはどういう人たちなのか、それは例えば盆栽にハマっているおじいちゃんとどう違うのか。そんな新しい言葉への素朴な疑問や、「オタク」と呼ばれる人々が当時どのように捉えられていたかも、この作品から読み取ることができる。 他にもさまざまな平成感あふれる描写が登場するが、そもそもブラック企業勤めというわけでもないのに“刺激がない”という理由で脱サラして警察官になってしまう主人公・青島の動機そのものが、一番平成感があるかもしれない。 平成に生きる人たちは何を考え、どのような社会で生きていたのか。「レトロブーム」が起きている今だからこそ、平成レトロとしての『踊る大捜査線』シリーズを堪能してみてはいかがだろうか。
キットゥン希美