《今も生き続けるメッセージ》稲盛和夫さんが65歳で出家して学んだ、「人生が必ずうまくいく」 “6つの修行”
「美しい心」をつくるために
私は60歳になったら、心を静かにして、できれば宗教の勉強でもしたいと思っていました。死という新たな旅立ちの前に、できればお坊さんの真似事をするためにお寺に入り、しばらく仏教の勉強をしてみたいと思っていたわけです。 ところが、60歳を過ぎてもなかなか余裕がとれず、予定から5年遅れの65歳になって、やっとその願いを果たすことができました。 あとどれくらい生きられるかわからないけれども、多忙なままに仕事を続けていたのでは、いつまでも念願の出家を実現できないと思い、私がたいへん尊敬している臨済宗妙心寺派の西片擔雪(にしかたたんせつ)老師にお願いして、お寺に入れてもらうことを決めました。 しかし、修行を始めようと思った矢先に胃ガンが見つかり、急遽手術をすることになってしまいました。そして、その手術日が、ちょうどお寺に入る予定日でもありました。 ところが、手術をして胃を切り取ってもらったのはいいのですが、運悪く手術は失敗に終わり、入院先で苦しむことになりました。そのようにして、ようやく病院から出てきたとき、この機会を逃してはならないとお寺に行き、頭をそってお坊さんになったのです。 なぜ、お坊さんになったのか。私は大会社の社長としてではなく、一人の人間として、少しはまともな人間になって死を迎えたいと思ったからです。ですから、お寺では真剣にお釈迦さまの教えを勉強しました。 お釈迦さまは、優しい思いやりのある心を持つこと、つまり美しい心になっていくことを、「悟り」をひらくと言われ、またそのような人こそが、一番位の高い人間だとも言っておられます。
「美しい心」をつくる6つの修行
人間が修行して立派な心になれば、想像もできないほどすばらしい人生がひらけていきます。心がきれいになるに従って、不幸も寄ってこなくなるのです。そのような「悟り」をひらく方法として、お釈迦さまは「六波羅蜜」(ろくはらみつ)という6つの修行があると説いておられます。 最初にあげておられるのが「布施(ふせ)」です。 お坊さんにお米やお金などを差し上げることを「布施」といいますが、その本質は「思いやり」であり、「優しさ」です。貧しい人がいたら、その人に何かを恵んであげようという優しさ、思いやりです。人間性を向上させていくには、まず人のために一生懸命何かをしてあげることです。 お金があるから、施しができるのでは決してありません。何も持っていなくても、人のために身を粉にして尽くしてあげる。そのようなことがすばらしい人生を送るための最初の修行なのです。 次は「持戒(じかい)」です。持戒とは、戒律を守ることです。 人間は不幸にして、やってはならないことをついしてしまうものです。しかし、人間として、そのことを反省し、二度としないという誓い、決意のもとに、自分自身の新しい人生をつくっていかなければいけません。 やってはならないことをするということは、私にもあることです。私も肉体を持っている人間だから、やってはいけないこともしたくなるときがあります。みなさんだけではありません。私も含めて、自分を抑える気持ちが少し緩んだとたんに悪さをしてしまう、それが人間なのです。聖人君子のように悪さをしない人など、一人もいないのです。 しかし、だからこそ「してはいけない」と常に自分自身に言い聞かせなければならないのです。お釈迦さまも、そのような人間であるからこそ、「自分を抑えなさい。戒律を守りなさい」と我々を戒めているのです。 次は「精進(しょうじん)」です。「一生懸命に努力をしなさい」ということを、お釈迦さまは「精進」という言葉で教えているのです。 これは、誰よりも一生懸命に努力するということであり、また人生を怠けて生きてはいけないということです。仕事や勉強に一生懸命に取り組み、日々創意工夫を重ねていく、それも立派な「精進」なのです。 次に、「忍辱(にんにく)」があります。これは、「耐え忍びなさい」ということです。みなさんも、人生で耐え忍ぶことが必要です。 ひどい目に遭っても、それを恨むのではなく、ひたすらに耐えるのです。人生には必ず浮き沈みがあります。災難に遭うときもあれば、ひどい目に遭うときもある。そのようなときであっても、お釈迦さまは「耐えなさい」とおっしゃっているのです。 人生には必ず逆境があります。それは、若いときであったり、また年をとってからであったり、人によりさまざまですが、そのような困難なときにこそ、それにじっと耐え抜くのです。その「耐える」ということを通じて、人間ができていくのです。 だから、みなさんのような苦難に遭って、それに耐えた人と、そうでない人とでは、将来はまったく違ってくると私は思います。 次は、「禅定(ぜんじょう)」です。みなさんも、ふと心を静かにし、過去を振り返ったりすることがあると思います。それを、仏教では「禅定」といいます。 いうならば、1日1回でもいいから、「心を静かに保ちなさい」ということです。そうすれば、最後に「智慧(ちえ)」、つまり「悟り」に至ることができるというのです。 今お話しした、「布施」「持戒」「精進」「忍辱」「禅定」「智慧」、お釈迦さまは、この6つのことに努めていきさえすれば、人生というのは必ずうまくいくと説いておられます。