世界初の治験進む iPS細胞を使った重症心不全の治療 開発の裏側は・・・
iPS細胞から心臓の筋肉の細胞を作り、それを重い心不全の患者の心臓に注入して心臓の機能回復を目指す世界初の治験が行われている。そのためには医学的研究のほか、特殊な針の開発、長距離輸送試験など様々なチャレンジが続いていた。
岡村勇さん(68)は、およそ2年前、重い心不全と診断された。「歩くともうはあはあして、自転車をこぐって言っても苦しくなってぜんぜんこげない」「3日間くらい息が苦しいんで。もう緊急で入院しなくちゃダメだと言われた」岡村さんは1年半前、iPS細胞から作られた心筋細胞(心臓の筋肉の細胞)を心臓に注入する治験に参加した。その後、心臓の機能が回復し、今年の夏は、週末ごとに祭りで趣味のみこし担ぎを楽しむほど体調が良いという。
■心不全を治すには心筋細胞を補填するしかない
心不全とは、心筋梗塞などで心臓を動かす筋肉の細胞=心筋細胞の一部が死んでしまい、心臓の収縮力(血液を押し出すポンプの役目)が弱まり、死に至ることもある病気。治療のための飲み薬もあるが重症患者は治せず、根治には心臓移植しかないが、心臓の提供者は少ない。実は心筋細胞は、ほかの筋肉の細胞とは異なり、一度死ぬと体内で再び作られることがない。心不全を治すためには、自然には増えない心筋細胞を人工的に補って、心筋を増やし、心臓のポンプ機能を回復させる必要がある。
■世界初 iPS由来の心筋球による心臓治療とは
医師で慶応大学名誉教授の福田恵一氏らの研究チームは、様々な臓器の細胞になれるiPS細胞から心筋細胞を作りだすことに成功し、それを患者の心臓に大量に注入する世界初の方法、心筋補てん療法を開発した。注入された心筋細胞はもともとあった心臓の筋肉につながって生着し、心筋が増え、心臓が収縮力を取り戻すというのだ。 福田氏が立ち上げた医療ベンチャー企業Heartseed社は、現在、ヒトで安全性と有効性を調べる治験を行っている。今年5月までに、5人の重い心不全の患者の心臓に心筋細胞5000万個を移植(注入)したところ、経過観察期間の6か月を経過した4人のうち3人では、様々なデータで、心臓機能の著しい改善がみられたという。改善がないとされた1人も、心筋細胞が移植されていない部位の悪化で全体の数値が良くないものの、移植された部位では改善が見られたと福田氏は説明した。