映画「きみの色」公開、山田尚子監督インタビュー「大切な感情が生まれる、その『作用』を描きたかった」
「作り手と受け手が考え合う、それができたらうれしい」
──さきほど絵コンテを書いているときにどんどんトツ子のキャラクターが出来上がっていったということでしたが、それはきみやルイも同様ですか? 同じです。私は絵コンテを書いているときに、この子はどういう子なんだろうと考えながら作業しているんです。どうしてここでこういうことをするんだろう、こういうことを言うんだろうとずっと考えるんです。 それで、あ、そうか、この子は、あるいはこの人は、こういう人だからこういうことをやったり言ったりするんだと、少しずつ理解していく感じなんです。さっきも言ったように、そこで新たな興味も湧いてくるんです。 ──そうすると、映画を観ている方も、映画を観ながらこの子はどういう子なんだろうと考えながら観ているわけですから、作り手と受け手が映画を軸にして共に考え合ってるわけですね。 そういう関係性が出来ていたら、すごくうれしいです。私は考えることが大好きだし、考える人も大好きですから。作り手と受け手が考え合う、映画ってそれができるものですよね。映画はやはり能動的に観てほしい、私も映画を観るとき、それを心がけています。 ■ 山田監督が「嫌な感情」を描かない理由は? ──主要な登場人物3人がみんなやさしいというのもそうですが、実はこの映画には憎しみや裏切りといった人間の嫌な部分が出てきません。あるインタビューで、川村元気プロデューサーが、「山田監督が、今回は嫌な感情のない世界にすると言うのを聞いて驚いた」と述べていて、脚本家の吉田玲子さんも「山田監督は人間のダークな部分に踏み込まなくても映画は出来ると言っていた」と証言しています。この人間の嫌な部分に踏み込まないというのは、監督のポリシーなのでしょうか? 時間がもったいない気がするんです。悩みとか苦しみとか気まずい思いとか叱られたこととか、そういったことはみなさんすでに経験されているわけじゃないですか。だから、そういうものは描かなくても経験値で補填できるわけだし、わざわざ嫌な思いをフラッシュ・バックさせる必要もない。 それよりも、それをどう乗り越えたかを描く方が大事だと思うし、なにより、人が好きなものと出合ってなにか大切な感情が生まれた、その瞬間、「作用」ですよね。その動きの方がずっとロマンチックだと思っていて、私はそれが描きたいので、つらい、しんどいシーンに時間を割いている余裕はないんです。