映画「きみの色」公開、山田尚子監督インタビュー「大切な感情が生まれる、その『作用』を描きたかった」
『映画けいおん!』(2011年)、『映画 聲の形』(2016年)などで知られる山田尚子監督の新作『きみの色』が、8月30日から公開される。 【動画】『きみの色』のためにMr.Childrenが描き下ろした主題歌 人が色で見える少女を中心に、いまを生きる高校生たちが音楽を奏でる物語。実在感とともにどこか浮遊している独特のキャラクターが紡ぎ出すやさしい世界。いまや世界中の映画祭からも注目される日本を代表するアニメーション監督の一人、山田監督に話を訊いた(取材・文/春岡勇二)。 ■「地に足の着いた題材で、本当にやりたいものを」 ──『きみの色』は山田監督にとって、TVシリーズもない、初のオリジナル映画作品ですが、脚本はこれまで何度もタッグを組んできた吉田玲子さんです。監督の方からは作品の構想としてどういった働きかけがあったのでしょうか? 吉田さんは、山田が初のオリジナル映画としてどういった作品を考えているのか、きちんと訊き出そうとしてくださってありがたかったです。 ただ、私もいろいろな経緯があってオリジナルに挑戦することになり、初めはスケールだとか題材だとかこれまでにないものに挑む、そんな少し頑張ったものにしなきゃだめか、なんて考えたのですが、一晩寝たら、そうじゃなくて、私にとって地に足の着いた題材で本当にやりたいものじゃなきゃだめだなと気がついたんです。それで吉田さんにお伝えしたのが「音楽を奏でること」を題材にしたいということでした。 ──山田監督の「音楽を奏でる」作品と言えば、監督デビュー作であるテレビアニメ『けいおん!』や、映画初監督作品となった『映画けいおん!』を思い出す人も多く、原点帰りかと言う人もいるように思いますが・・・。 私自身にはそういった意識はなかったです。心の奥底まで見渡してまったくなかったかはわからないですが、少なくとも強く意識することはなく、ただ、いまやりたいものをやるという気持ちでした。 ──では、いま「音楽を奏でること」をやりたかったのは何故ですか? もともと、見えないものや言葉にならないものを描きたい、という気持ちがあって、せっかくオリジナルでやらせてもらうのだから、その表現に挑戦しなくては思ったのと、「音」というのは物質でもあるので、メロディが素敵とか響きが心地良いということももちろんあるけれども、「音」を体験する、体感するということもあって、映像作品ならそれを実現できる。目指したのは「音」を体験する映画でした。 ──劇中でトツ子と一緒にバンドを組むルイくんの奏でる楽器がテルミン(※世界最古の電子音楽。楽器に直接触れずに演奏する)なのにちょっと驚いたのですが、テルミンこそ見えない波長を音にして奏でる、いまの監督のお話しにぴたりと符合する楽器ですね。 テルミンって安定した音程を奏でるのが難しい楽器で、その独特の浮遊感でSF映画に使われたりすることが多いのですが、名手の方の演奏を聴いたら音程もまったくブレず表現も豊かでその魅力にはまってしまって。また2020年が「テルミン発明100周年」というのも私のなかで気になっていたことの一つだったので、思い切って使ってみたんです。