映画「きみの色」公開、山田尚子監督インタビュー「大切な感情が生まれる、その『作用』を描きたかった」
人が色で見えるトツ子「特別な能力ではなく、1つのルール」
──監督の志向を具現化したうまい使い方だったと思います。さて、この作品の大きな特徴に、トツ子は周りの人が「色」で見える女の子だということがあります。これはどういった発想だったのでしょう? 人のことを色で感じるのは特別な能力ではなくて、トツ子という少女が人と関わっていくための一つのルールなんです。トツ子は人の色が見え、そのなかで自分の好きな色の人のところに寄っていく、それが彼女の特性なんです。 「色」も「音」と同じで波長は見えない。見えないけれど確かに在って感じることはできて、それによって楽しくなったり気持ちが楽になったりする。それも「音」と同じ。そんな見えないものによって人の心になにかが生まれる、そんな「作用」を描きたかったんです。あと、映像表現の特性として「色」での表現にチャレンジしてみたかった、というのもありました。 ──そのトツ子に見える「人の色」ですが、原色のようなきつい感じのものがなく、すべて淡い色で描かれています。 トツ子が見る「色」は、「光」だと思っているんです。色は重ねていくと濃くなっていくけれど、光は逆に淡くなっていく。光のもたらす色と色の間には繊細なグラデーションがあって、この人はこういう色で、だからこういう人、そのようには決めつけない、いい意味での曖昧さとフィットしているように感じたんです。なので、トツ子の見る「色」は、色の三原色ではなく、光の三原色で構成された、淡い色なんです。
それぞれに違うやさしさを持つ3人のキャラクター
──なるほど。あと、いまさらなんですが、「トツ子」という名前が変わっていて面白いですが、命名者は監督ですか? そうです。私は基本的に映画は一回の出会いだと思っているので、観てくださった人にできれば主人公の名前を覚えて帰ってもらいたいんです。それで、あとで映画の話をするときに名前で語ってもらえるとうれしい。だから、覚えやすくて、なんとなく愛敬のある名前として考えたのが「トツ子」でした。 ただ、絵コンテを書いていき、物語の上でだんだんトツ子が動いていくうちに、好きなものに真っ直ぐに向かっていく猪突猛進的な少女像が出来上がってきて、まるで名が体を表すみたいになって、自分でもちょっとうれしい驚きでした。 ──あとの主要なキャラクターとして、少女の「きみ」と少年の「ルイ」がいて、3人でバンドを組むわけですが、監督から見て、この3人はどのような子たちでしょうか? それぞれに違うやさしさを持っている子たちですね。トツ子は他人を気遣うことが自分の行動の原動力になっていて、きみはトツ子と同様に他人を気遣う子なんだけど、彼女の場合は気遣うからこそ動けなくなってしまう。 そのことに気づき、私自身が彼女たちへの興味がつきないなと思いました。他人を思いやる気持ちは一緒でも、人によってこんなにも行動の矢印が変わるんだって。人って面白いですよね。ルイくんは他者からの意見を受け入れることも出来るし、自分から提案することもできる、幅のある少年です。