「これって教員の仕事?」疲弊する先生のリアル 終わらない業務、保護者からの無理難題に苦慮
特に力を入れていたのが、英語教育だ。大学を卒業後、海外で働きながら英語力を養った。その経験から、「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能をバランス良く養成するために、どうしたらいいかを考えた。 朝の時間に、さいころを振って出たテーマについて英語で話す活動も採り入れた。子どもたちは物おじせずに取り組み、力がどんどん上がった。 一方、仕事には疑問もあった。授業に関係のない業務が多すぎることだ。 放課後にはまず、校内の会議や研修、打ち合わせがある。それが終わると、事務仕事が待っている。代表的なのが、学校の庶務を教員が分担する「校務分掌」だ。
3年間担った「会計」では、遠足などにかかった費用を計算して精算書をつくり、全ての領収書を貼り、事務職員に提出するといった作業がある。提出後に「3円違っている」と指摘され、数日間かけて全ての数字をつきあわせ直したこともある。 疑問が募った。「これって教員の仕事なのか」。 本来、放課後は翌日の授業準備にあてたい時間だ。子どもが下校するまでは、授業のほか、提出物のチェックやテストの採点などに、息つく暇もなく追い立てられるからだ。
なのに、学校にいる間は作業に追われ、じっくりと教材に向き合えない。 自身が教員になってから、教育の世界にも様々な変化の波が訪れていた。 動画投稿サイトのユーチューブでは、わかりやすい解説をする「教育系ユーチューバー」が登場。コロナ禍でリモート授業が注目され、その人気は一層高まっていた。 いまや学校に行かなくても、勉強する方法はいくらでもある。 それなのに、相変わらず先生が技能を磨く体制は乏しく、そのための時間もない。
「そのうち、学校に来る子がいなくなってしまうのでは」。漠然と感じていた不安は、年々強くなっていた。何より、魅力を感じ、大切にしていた「教える」ことが後回しになってしまっていることに気付いた。 もう限界だった。 ■後ろ髪をひかれながら民間企業に就職 校長に告げた。当初は何度か、理由を説明するよう求められた。だが、自分の決意が固いとわかると、「またいつでも戻ってこられるから」と理解を示してくれた。 教え子たちは良い子ばかりで、後ろ髪がひかれる思いはあった。でも、どう考えても、学校という場所に魅力を感じられなくなっていた。
その後、民間教育企業に就職した。AI(人工知能)を使って、子ども一人ひとりに最適な学習を提供する教材づくりを担った。先端技術で学習効率を高めることで、子どもたちの学びを支援する。そんな役割に、やりがいを感じた。 それでも、教室でのやりとりや子どもたちの笑顔が、毎日のように脳裏をよぎる。 「根っからの先生なんやろな、と思います」。学校が本当に子どもたちのために変わった。 そう思える日が来たら、また教壇に立ちたいと思っている。
朝日新聞取材班