「リストラしたら、2度と職人は戻らないよ」母の金言、歯を食いしばった3代目 そして、地方発ネクタイブランドは飛躍した
◆先代社長の母「リストラしたら、仲間いなくなるよ」
----コロナ禍に事業承継されていますが、経営状況は厳しかったのでしょうか? 2020年までは良かったのですが、2021年に大幅に売り上げが下がりました。 自社ブランド「SHAKUNONE」の売り上げは伸びていましたが、OEMがガタ落ちしました。 当時の売り上げは7割が自社ブランドで、3割がOEMでした。 でも、実際に手を動かす仕事量は逆でした。 OEMは昔に比べたら単価は少し上がっていますけど、あまり高くはないのです。 でも、職人の手が止まらないだけの仕事量はありました。 ところが、2021年にOEMが一気になくなりました。 厳しかったですね。 ----リストラは考えたりしませんでしたか? ずっと考えていました。 さすがに誰か辞めてもらわないといけないんじゃないかと、先代だった母に相談したところ、「それをやったら、もう2度と職人さん戻ってこないよ」と言われました。 「私は苦しくても、それだけはやってこんかった。あんたは絶対チャンス作れる。でもチャンスが来たときに仲間がいなかったら、絶対乗り越えられないよ」と言われたので、歯を食いしばろうと決意しました。 すると、2022年にテレビ番組「Mr.サンデー」で、うちのネクタイが取り上げられました。 このときの反響が凄くて、1時間で400万円分も売れたんです。 3日で1千何百万みたいな感じで売れて、在庫はゼロになりました。 そこから予約注文を作るのに2カ月近くかかる状況になりましたが、2カ月待ちと案内していた分も1カ月半で納品できました。 とんでもない仕事量でしたが、リストラを回避して人員がいたため、乗り越えられました。
◆自社ネクタイに合うスーツとは
----ちなみにスーツの事業はどういった思いで始められたのでしょうか? 「シャクノネ」の特徴は、シンプルさと奥深さで、派手で奇抜なデザインは多くありません。 しかし、職人の技術で、エッジのふっくら感や、メリハリのあるシルエット、シルクの素材感を活かした光沢や、美しく引き締まった結び目を実現しています。 こうした特徴を守っていると、お客様から「シャツやってないんですか?」「スーツはないんですか?」「シャクノネのネクタイに合うスーツってどんなスーツですか?」という質問を度々もらうようになりました。 しかし、僕は自社のネクタイが似合うスーツというのが分からず、何も紹介できなかったんです。 だったら自社でスーツも作ろうということになったのがスタートです。 リサーチの結果、地元にスーツを作れる工場が1カ所だけ残っていたので、連携してスーツを作ることになりました。 これが「つやまスーツプロジェクト」です。