女王・スペインとの「1点差」に見えた現在地。アクシデント続きのなでしこジャパンはブラジル戦にどう勝機を見出す?
鋭い牙を向いた世界王者の前に…
しかし、失点したスペインは早々にその鋭い牙を剥いた。22分、中央を細かいパスで突破され、アイタナ・ボンマティが冷静なシュートで試合を振り出しに戻す。日本はさらなる失点に備えつつ、ハーフタイムに明確な手を打った。後半は左サイドハーフの宮澤ひなたを最終ラインに下げて5バックにし、右サイドに浜野まいかを投入。得意のカウンターに移行した。その戦術的な判断について、熊谷紗希とともにディフェンスラインを統率する南萌華は、こう振り返っている。 「前半、失点はしましたが、4バックでも戦えることを見せられたことをプラスに捉えています。後半はシステムを(3バックに)変えたり、自分たちで考えながらフォーメーションを変えて戦えるのは強みだと思います」 「システムを変える」という戦術的な決断を、監督だけでなく、選手たちが柔軟に判断できるチームには伸びしろがある。 だが、1年前にカウンターで痛い目に遭っているスペインはしたたかだった。バルセロナ、レアル・マドリード、マンチェスター・シティなど、ビッグクラブの主力が揃うイレブンが、ティキ・タカを発動。個々の高い技術に裏打ちされた選択肢の多さと、目まぐるしい連動性を断ち切ることができず、日本はボール保持率を3割近くにまで下げている。 それでも、陸上400m走と400mハードルで18歳以下の国内記録を持つ20歳のサルマ・パラジュエロは熊谷紗希と南萌華のローマコンビが封じていたし、守備を固めた日本のゴール前に、スペースはほとんどなかったはずだ。「前半は相手のインサイドハーフに対してなかなか出て行くことができなかったので、形を変えて(マークに)出やすくした」。熊谷がそう振り返ったように、穴は塞いだはずだった。だが、60分過ぎに日本をアクシデントが襲う。 右ウイングバックの清水梨紗が、右膝を負傷し、退場を余儀なくされたのだ。池田監督は左サイドバックで起用していた18歳の古賀塔子を右に、センターバックの一角には高橋はなを投入して対応したが、流れがわずかに変わったその瞬間を相手は見逃さなかった。6分後、左サイドのマリオナ・カルデンティが細かいタッチでボンマティとのワンツーからゴールネットを揺らす。スペインが打ち続けたジャブが、ストレートに変わった瞬間だった。 田中美南は振り返る。 「交代で守備陣がまだ安定しない中で、より守備に回る時間が多くなって、『失点しないようにしよう』と。ただ、ペナ(ルティエリア)内に入られた時に、ファウルやVARがあるので、ボールにアタックし切れなかった反省があります」
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