女王・スペインとの「1点差」に見えた現在地。アクシデント続きのなでしこジャパンはブラジル戦にどう勝機を見出す?
明暗を分けた「1点差」。
今回のスペイン戦は、1年前とは前提条件も大きく異なっていた。前回は互いに決勝トーナメント進出を決めたグループステージ最終戦だったが、今回は大会の入りを決める初戦。結果が占めるウエイトを考えれば、この試合結果が紛れもない日本の現在地だ。 総合力では差を見せつけられる形となったが、相手の実力を考えれば、悲観するほどではないだろう。特に、互角以上の戦いができた前半は、選手のコメントからも自信になっていることがわかる。 個人では、藤野が強烈な存在感を示した。昨夏のワールドカップで記録した日本人史上最年少ゴール(19歳180日)につづき、日本女子の五輪最年少ゴール(20歳5カ月)を奪取。前線にスペースがないと見るや、ボランチの位置まで落ちてゲームを作るシーンもあり、1対1では、イレーネ・パレデスにイエローカードを出させた42分のシーンが圧巻だった。テクニックやインテリジェンスも含めて「尊敬する部分がたくさんある」と対戦を楽しみにしていたボンマティに引けを取らないインパクトを残したのではないだろうか。 一方、明暗を分けた後半の「1点」は、簡単に埋められる差ではないもののようにも思える。 女子UEFA EURO予選や女子ネーションズリーグでひしめくライバルとしのぎを削り、ギリギリまでチームの完成度を高めてきたスペインに対し、日本が今大会に向けてマッチメイクに苦戦した感は否めない。個の成長とチームの成熟という両輪でそうした環境面の差を埋めてきたが、もっと構造的なサポートが不可欠だ。島国の地理的な不利は差し引いても、UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)とAFC(アジアサッカー連盟)の女子サッカーに対する温度差をどう埋めていくのか。国内プロリーグをどのように盛り上げ、強化していくのか。大会後にあらためて検証する必要があるのではないだろうか。
過去の対戦は1勝2分1敗。ブラジル戦の勝機は?
なでしこジャパンは中2日の連戦でブラジル戦に挑む。この重要な試合を前に、清水のチーム離脱が発表されたことは、衝撃を与えた(ケガの詳細は発表されていない)。 「スペインやブラジルは、タクティカルな部分でも見えることが多くあります。フィジカルやパワーが優る海外の選手にどう戦っていくか。その違いを見せたい」 7月上旬、マンチェスター・シティに3年契約で加入することが発表された清水は、今大会で世界の戦術トレンドの変化を楽しみにしていた。その無念は、チームメートの手に託された。 スペイン戦はベンチ外だった北川ひかるも含め、左右の生命線を欠くとなると、かなり厳しい状況だ。右は守屋都弥と清家貴子、左は宮澤ひなたが、2人の穴を埋めるサイドの鍵になる。 グループ3位までにノックアウトステージ進出の可能性があり、得失点差も考えると、スペイン戦で1点差に抑えたことはむしろプラス要素。ただし、28日の第2戦でブラジル(初戦ではナイジェリアを1-0で下した)に敗れれば、GS敗退も現実味を帯びてくる。 ブラジルは、ワールドカップ後の9月に就任したアルトゥール・エリアス監督の下、60人近いラージグループから熾烈な競争を勝ち抜いたメンバーが揃う。“女王”マルタを筆頭に、経験値と勝負強さを兼ね備えた選手がチームをまとめ、代表での成功を目指す若い選手たちの目は、獲物を追い込むハンターのようだ。 その相手を知り尽くすのが、過去4試合で3ゴールを決めている“ブラジルキラー”田中美南。「スペインに比べて、ブラジルは攻撃がシンプル」と分析した。「自分が潰されたら攻撃の時点が途切れてしまう責任があるので、そこを意識しつつ、マンツーマンで人につく意識が強い分、動きで惑わして、スペースをついていきたい」と狙いを定めている。膠着した展開では、時間をかけて取り組んできたセットプレーも、勝利への糸口になる。 そのためにも、初戦同様、ベストメンバーで臨みたい。フランス高速鉄道(TGV)の騒動で第2戦の会場・パリへの移動がバスに変更になり、コンディション回復への影響が懸念されるが、「過去の合宿でもタイトなスケジュールで戦ってきた」と、南はネガティブな影響を否定した。 交代枠をフル活用して難敵との戦いを制し、メダルへの希望をつなぐことができれば理想的だが、果たして池田監督はどんな手を打つのか。試合は日本時間7月29日の深夜0時にキックオフとなる。 <了>
文=松原渓[REAL SPORTS編集部]
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