妹尾和夫 蜷川幸雄さん悼む「あれだけ役者の気持ちわかる演出家いない」
芝居には『今』が表現されてなかったら意味ない
蜷川さんが大阪公演を行った際、妹尾さんは百貨店でバナナ150本を買って差し入れした。すると、2週間後には蜷川さんから「妹尾さん、本当にたくさんのおいしいバナナをありがとう。貧乏な役者たちがむさぼるように食べていました。本当にお心遣いをありがとう。また会える日を」と直筆メッセージの和紙のはがきが届いた。 「蜷川さんは、灰皿を投げたりとか怖いイメージもあるかもしれないけど、あれはほんの一部であって。やはり自身も役者もされていて苦労された時代があったから、役者の気持ちがよくわかる。エキストラさんにも必ず毎回声をかけておられました。あれだけ役者の気持ちがわかって、気配り目配りができる演出家はいない。そういうことが全部読める方でした」と話す。今でもその手紙は部屋に飾ってあり、この「むさぼるように」という言葉にも、役者への愛情が表れていると妹尾さんは改めて思う。 また「蜷川さんが毎回ブレないで言っていたことは『演劇をやる以上は3時間の芝居であれ2時間の芝居であれ、どっか一部に『今』が表現されてなかったら意味がない』と話しておられました。演劇的に転換のすごさをみせてくれるんだけど、どこかで『今』を表しておられたんです」と続けた。 最後に蜷川さんに会ったのは昨年の8月。「その時の蜷川さんは車椅子で、私もひざまづいてお話をしましたが、目の焦点が合ってなかった。この10年ほどは大病しながらでも、闘っておられたんで、僕はすごい方だなぁと思いました。命を削ってでも、演出をやり続けておられたんですね。私にとっては心の支えでした」と当時を振り返りながら故人を偲んだ。 ■妹尾和夫(せのお・かずお)大阪市大正区出身。日本大学文理学部哲学科に入学し、演劇部に所属。その時に東京の劇場で見た蜷川幸雄さん演出の芝居をみて俳優への道を進む。1985年、牧野エミ・升毅らによる演劇ユニット「売名行為」を発足し、1992年には劇団パロディフライを旗揚げ。ドラマでは「暴れん坊将軍」や「部長刑事」などにも多数出演し、ABC朝日放送テレビの情報番組「せのぶら」や同局ラジオ「とことん全力投球!!妹尾和夫です」メインパーソナリティとしても知られる。21、22両日にはシアター・ドラマシティで公演する「大阪ヒミツ倶楽部『愛しの貧乏神』」に安井牧子らと出演する。