【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第23回「懸賞」その4
いいことをすれば、もっといいこともある
落ちぶれて、袖に涙のかかるとき、人の心の奥ぞ知る、という民謡の歌詞があります。 コロナ禍の中、ドタバタしながらもなんとか令和3年初場所が幕を開けましたが、初日直前の緊急事態宣言で観客数を急きょ、5000人に減らさざるを得ませんでした。 試練、また試練ですね。 でも、幕内の取組にかかる懸賞は、たった100本減っただけで1300本を数え、芝田山広報部長(元横綱大乃国)は「こんなときに、非常にありがたい」と涙を流さんばかりでした。 ところで、あの懸賞、手取りが1本3万円ですが、力士たちはいわゆる小遣いとしてではなく、実に上手に使っています。 そんな懸賞のおもしろい使い道を紹介しましょう。続編は後日。 ※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。 【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第23回「懸賞」その1 内弟子からの懸賞 最近、力士だけでなく、世間のあちこちで「感謝」という言葉を耳にします。確かに、人間は感謝の心を忘れてはいけません。 平成28(2016)年九州場所、石浦(現間垣親方)は待望の入幕を果たした。入門から4年目のことだった。初日、千代大龍に叩きこまれて白星デビューができなかったが、2日目、臥牙丸に左を差して中に入り、下手投げで鮮やかに這わせた。このときの臥牙丸の体重は幕内2位の199キロ。石浦は幕内最軽量の114キロ。85キロ差をものともしない快勝に、館内から大きな歓声があがった。 この幕内初白星でゲットした懸賞は2本。いかにもいとおしそうに支度部屋に持ち帰った石浦は、 「うまく中に入れた。投げは流れです」 と幕内初白星を挙げた取り口を説明し、 「懸賞は横綱(白鵬、現宮城野親方)と師匠(先代宮城野親方、元幕内竹葉山)に渡しますよ」 とニッコリした。 石浦は、白鵬にスカウトされた内弟子だ。もう懸賞はうんざりするぐらい手にしている白鵬だが、入門以来、面倒を見ている石浦に初めて獲得した懸賞を贈られたときの喜びを次のように明かしている。 「2日目の夜、場所から帰った石浦に、幕内で白星を挙げられたのは横綱のおかげです、と懸賞をプレゼントされました。その瞬間、私は思わずウルッときました。石浦からもらった感謝の言葉と懸賞金のことは生涯忘れることはないでしょう」 いいことをすれば、もっといいこともある。この場所、石浦はこの初懸賞を獲得した2日目から11日目まで10連勝して初の敢闘賞も獲得した。賞金は200万円。こちらは誰かにあげたという話は伝わっていない。 月刊『相撲』令和3年2月号掲載
相撲編集部