「車いす社長」ヒントの介護付き旅行サービス始動から1年 その成果は?
懐かしい老舗旅館を再訪し自室の露天風呂を堪能
今仲さんは昨年9月、渋谷守さん千鶴子さん夫妻(70代)の石川県一泊旅行をサポートした。守さんは数年前脳梗塞を患い、後遺症で歩行が困難なうえ、言葉が不自由になり、ごく限られた言葉しか話せなくなった。現役タクシードライバーを含む友人2名も支援に加わり、夫妻で訪れた温泉地の老舗旅館を再訪することが目的だった。 旅のだいご味は温泉風呂。しかし、バリアフリー化の進んだ宿泊施設といえども、高齢者の障害度合いによっては入浴が困難なケースが少なくない。今仲さんは大浴場を下見したうえで、守さんの入浴には段差などで危険が伴うと判断。自室内の露天風呂での入浴に切り替えて提案したところ、守さんも了承。守さんは今仲さんらの介助を得て、たっぷりのお湯に身を任せてバスタイムを満喫した。 一方、中井家の福井旅行。旅館到着後、康子さんは予定通り貸し切りの家族風呂に入浴し、久々の温泉でくつろぐ。「私、朝風呂がいちばん好きなのよ」――上機嫌の康子さんが問わず語りにもらした言葉を、大島さんは聞き逃さない。その日のうちに大浴場を視察したところ、入浴が可能と判断。翌朝、康子さんは望外の朝風呂を体験することができた。 入浴が困難な場合でも、TCAは次善策を追い求める。家族の発案で室内での足湯が実現したケースもあった。大島さんの協力要請を旅館側が快諾。温泉のお湯が室内まで運ばれ、特設の足湯風呂が完成。女性の高齢者は足をひたしてつかの間の温泉気分を楽しんだという。
春山家方式「障害があるからこそ家族旅行の意義が倍増」
グッドタイムトラベルには春山ファミリーの体験が息づく。創業者の満さんは20代で全身の運動機能が低下する進行性筋ジストロフィーを発症。難病と闘いながら介護や医療が立ち遅れている現実と直面。本当に求められている介護機器サービスの自社開発に取り組んだ。車いすで全国を駆け回っていたが、2014年2月、力尽きて亡くなった。 満さんはどんなに多忙でも、年3回の家族旅行を欠かさなかった。夏は海水浴、冬はスキー場へ。旅行先には満さんを中心にして、満さんを介護する妻の由子さん、長男哲朗さん、次男龍二さんの家族4人の姿があった。 旅先では普段とは異なる感性が働く。満さんはみっちり充電し、由子さんはしばし介護を忘れて英気を養う。子どもたちには両親から人生哲学などを学ぶ絶好の機会となった。障害があっても旅行へ行けるし、障害があるからこそ家族旅行の意義が倍増する。春山社長はこうした春山家の旅行実績をもとに、グッドタイムトラベルを考案した。 グッドタイムトラベルは顧客の要望に応えて組み立てていくオリジナル旅行ばかりだ。春山社長が旅行プロデュースを手掛け、TCAの大島さん、今仲さんが実際の旅行時の介護介助サービスを担当する。TCA1名の基本サービス料金は1泊2日10万円。介護を必要とする高齢者に対し、必ずTCAが1対1で対応する。TCAは移動や食事、入浴など旅行中に欠かせないすべての介護介助に責任を持つが、車の運転などはしない。介護のエキスパートとして介護サービスに徹する。