用意するのは紙とペンだけ。「出来事」と「思い」を日本語のリズムに乗せて《俵万智さんの短歌入門レッスン・基礎編》
デビュー歌集『サラダ記念日』以来、第一線で活躍を続けてきた歌人の俵万智さん。短歌作りの基本的なルールと、より豊かな表現にするアイデアを伝授します(構成=篠藤ゆり 撮影=大河内禎 イラスト=竹田明日香) * * * * * * * ◆用意するのは、紙とペンだけ 『婦人公論』読者のなかには、「短歌を詠んでみたい」「興味がある」という方もいらっしゃると思います。そんな方に私がお伝えしているのが、「短歌には道具がいらないので、すぐに始められる」ということ。 音楽を演奏したいとか、絵を描いてみたいという場合は楽器や筆などの道具が必要ですし、使いこなすための技術を習得しなくてはなりません。 一方、短歌の道具とも言える《素材》は日本語だけです。誰もが日頃使っているものですし、使わずには一日も過ごせない。俳句に必須とされる季語も、短歌には必要ありません。だから「作ってみようかな」と思った瞬間からスタートできる。それが短歌の良さだと思います。 用意するのは、紙とペンだけ。そして、ここでご紹介する「短歌の基本」と「伝わる歌にするコツ」を読んだら、思い浮かんだ歌をノートなどに書いていきましょう。 一度書いたら終わりではなく、何度か推敲を繰り返すことで、あなたならではの一首へと育てていってください。短歌を詠むことは、きっと生活に彩りを添えてくれるはずです。
◆【基礎編】知っておきたい短歌の基本 《「五七五七七」の型を味方に》 短歌の唯一の決まりが、「五七五七七」の31音の形式。型が決まっていると難しいと思われるかもしれませんが、型という器があるから短歌は面白いのです。 日本人にとって非常に心地よく感じられる五音と七音に日本語を当てはめることで、言葉がリズミカルになり魅力的に見えます。型が歌を支えてくれるのです。 ですからこの型を窮屈な決まりと捉えるのではなく、あなたの日本語を受け止めてくれる心強い器だと思ってください。 《人の歌をたくさん読む》 さまざまな作品を読むことが、一番手っ取り早い上達法です。繰り返し読むことで「五七五七七」のリズム感覚が身につき、自分の中に定着します。 また、日常の小さなことから大きなテーマまで、「こんなことも歌になるんだ」と実感できるはず。気になる歌人に出会ったら、その人の歌集を読むのもおすすめです。 気に入った歌に似せて歌を詠んでみるのも手だと思います。何事も「真似る」ことから始めるのが習い事の基本です。 《身近な出来事をネタに》 たった31音で作られる短歌ですが、日々の小さな感動や気づきを掬い上げられるところが魅力のひとつです。きゅうりが安くなってきたから夏だな、といったことは、長篇小説にはならないけれど短歌にはなります。 むしろ日々の小さなときめきこそ、短歌の題材に向いている。ですから、一見ありふれた出来事でも、「ネタになるのでは?」と立ち止まってみましょう。 歌を作ることで日々の暮らしが丁寧になり、豊かな感性が育まれます。
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