株式の「転売ヤー」が吊り上げた株価や転売益は企業の本質的な価値などではない!
「人材の転売」!?
「転売」が価値を生まないのは、「人材市場」でも同じである。 辛口の表現をすれば、人材会社は「日雇い型(ジョブ型)」雇用の人々を、回転させることによって手数料収入を得る。 一つの会社で一生働く終身雇用が人材会社の「敵」であることは、長期投資家が証券会社の「敵」であるのと同じだ。米国のように転職回数が多いほど、人材会社は繁栄する。証券会社と同じ原理である。 「企業の『価値』」が「転売」によって増えずに「価格」だけが上昇することはこれまで述べてきた。同様に、「人材の『価値』」も転売によっては増えない。増加するのは「本人の収入」だけである(もちろん転職によって収入が下がる場合もある)。
「人材の価値」を高める
「人材の価値」を増やすのは、本人の切磋琢磨と企業などによる教育(オン・ザ・ジョブ・トレーニングを含む)である。 そして、企業が「人材の価値」を増やすべく投資をするのはその社員が将来もその企業で働くと考える時だけだ。いつ転職するかわからない社員に多額の教育投資を行うのは馬鹿げている。 実際、最近は聞かなくなったが、会社の費用でMBAなどを取得した社員が転職する時にトラブルとなるケースがあった。企業にとっては、費用の無駄使いという結果になったわけだ。 長期的視点が必要なのは、企業への投資だけではない。企業経営そのものにも当然長期的視点が必要だ。そして、バフェットは経営者としても2019年1月25日公開「バフェットが実践する『実力主義の終身雇用』こそが企業を再生する」で述べたように、従業員をリストラしたり、逆に引き抜かれたりしないことを誇りにしている。 企業への投資においてバフェットが長期志向であることはよく知られているが、「人材への投資」においても長期志向なのである。 もちろん、「転職」を否定するわけではない。私も転職経験者であるし、「転職不可」の会社など「タコ部屋」と変わりがない。 しかし、バフェットは投資をよく「結婚」に例える。離婚は可能だが、長く添い遂げることが理想ということだ。 結婚してみて「どうしても相性が悪い」ということは当然起こる。だから離婚は認めるべきだ。だが、離婚を前提に結婚したり、離婚を繰り返すことはどうであろうか? バフェットが投資(たぶん経営も)を結婚に例える「深い意味」について我々はもっと掘り下げて考えるべきだと思う。
大原 浩(国際投資アナリスト)