なでしこJの藤野あおばが直面した4カ月の試練。「何もかもが逆境だった」状況からの脱却
勝負できるポイントは瞬発力「やりづらい選手にやってもらう」
――ザンクト・ペルテン戦はキレ味鋭いドリブルから2つのアシストを決め、SNSでは“メッシみたい”というコメントもありました。トップスピードで相手の逆を取る切り返しやクロスの精度など、高い強度とスピード感の中でタイミングはどのようにつかんだのですか? 藤野:日本では、ドリブルしている時に自分のタイミングや間合いでクロスを上げ切れたり、相手をはがせたりすることがあったんです。でも、シティに来たばかりの頃は、その間合いやスピード感だと相手に追いつかれたり、相手の足が伸びてきて奪われることが多くて。ただ、一瞬の瞬発力ではまだまだ「勝負できる」と感じたので、速い相手に対しては仕掛ける時に間合いを詰めて、ボールを動かしながらかわすプレーを地道に磨いてきました。自分よりも体が大きいからこそ相手の懐に入ることができれば有利に立てますし、そこは意識的に取り組んでいるところです。 ――選手によって間合いが違うと思いますが、自主練ではどんな工夫をしながらドリブルを磨いてきたのですか? 藤野:練習後に、自分が1対1でやりづらい選手にお願いして、練習相手をやってもらいました。それをひたすら積み重ねてきた感じです。試合に出ているチームメートは割とやりやすい選手が多く、はがすタイミングを見つけやすいんですが、アカデミー出身のリリー・マーフィーという18歳の選手が、スピード感や、間合いの詰め方と保つところの使い分けが独特なんです。唯さんにも「その人だけやりづらいんですよね」って話したら、「オリンピック後のオーストラリアのキャンプから露骨にやりづらそうだなって思ってた」と言われて(笑)。だから、その選手にいつもお願いしています。
10代からのステップアップを支えたもの
――先日ご両親に取材をさせていただいた際、藤野選手が課題を克服するための努力として、「試合の映像で自分のプレーを徹底的に見返す」ことを挙げていました。高卒後2年でWEリーグからマンチェスター・シティへとステップアップできた一番の要因はどのようなことだと思いますか? 藤野:試合後は必ず映像を見ますし、練習が終わった後に、残って自分に足りないところや、試合で「できなかった」と感じたところを練習するようにしています。周りにいい選手がたくさんいるからこそ、時間さえあれば練習して、早くそのレベルに追いつきたいし、サッカーが好きだからこそ「上手くなりたい」という気持ちが強く、練習が苦にならないんです。ただ、マンチェスター・シティはスポーツ心理学のスタッフもいますし、バックアップ体制も厚いので、最初の頃は自分が焦っているんじゃないかと心配されました。 ――藤野選手にとっては好きでやっている感覚でも、周りから見ると焦っているように見えたのですね。その時は、どんなふうに伝えたのですか? 藤野:スタッフの方はそれを継続できるのか心配しているようだったので、「誰かに言われていやいや練習しているわけじゃなく、休むという選択肢もある中で、自分がやりたくてやっていることだから苦しくないし、焦りは少しはあるけど、早く上手くなりたいからやらせてほしい」と伝えて、理解してもらえました。 ――ちなみに、普段の練習量はどのぐらいですか? 藤野:練習時間は日本と同じぐらいですが、自分としては少し足りないぐらいに感じます。ただ、スタッフの中には残っている選手を見る人もいるので、「帰れないから早く上がってくれ」と言われたこともあります(笑)。 <了>