唯川恵「大人の女性たちのリアルな恋愛体験談に、その人の人生が垣間見え。時代が変わっても、恋愛は女性の人生に大きなウエイトを占めている」
1984年にコバルト文庫で作家デビューしてからもうすぐ40年。直木賞受賞の『肩ごしの恋人』、柴田錬三郎賞の『愛に似たもの』など、長年恋愛小説を執筆してきた唯川恵さん。もう書き尽くしてしまったという思いと、年齢的なことから、恋愛というテーマから遠ざかっていたと語ります。しかし、知人の《恋バナ》をきっかけに、大人の女性たちの恋愛に興味を持ち、リアルな証言に基づくルポ形式の「恋愛新書」に挑戦したそうで――(構成:内山靖子 写真提供:新潮社) * * * * * * * ◆「本音」で書いた初めてのルポ 作家デビューしてもうすぐ40年。長いこと恋愛小説を書いてきましたが、今回初めてノンフィクションスタイルに挑戦しました。大人の女性たちのリアルな証言に基づく「恋愛新書」です。 36歳から74歳までの12人の女性たちに、実際に経験した恋愛について語ってもらい、それぞれの顛末に関して、私が忌憚のない意見を述べるというルポ形式で書きました。 なぜ今回、小説ではない形で恋愛を書いたのか。実はここ数年、私は恋愛というテーマから遠ざかっていました。 理由は、まず小説という形ではもう書き尽くしてしまったという思いがひとつ。もうひとつには、自分自身が恋愛とは距離を置く年齢になってきたことがあります。今さら私が恋愛小説を書く必要はないのでは、という思いもありました。 そんなとき、古くからの知り合いだったある女性の話を聞く機会があったのです。2人の子どもを抱えて離婚し、30代後半でシングルマザーとなった彼女は、現在40代。離婚当時は、「もうこりごり。恋愛なんて、もう二度としない」と言っていました。 しかし、そんな彼女に最近、また好きな男性ができてしまったというのです。彼の話をする彼女の姿は本当に楽しそうで、まぶしいものでした。
◆大人の女性のリアルな恋愛体験談 恋愛至上主義がもてはやされた若い頃を過ごした私からすると、今の若い人は「人生において、恋愛はあくまでもオプションのひとつ」と考えているように見えていたけれど、決してそんなことはない。いくら時代が変わっても、やっぱり恋愛は女性の人生に大きなウエイトを占めているんだなって。 そう気づいたことで久しぶりに興味をそそられて、じゃあ、大人の女性たちはどんな恋愛をしているのか。そのリアルな体験談を聞いてみたいと思ったのが、本書執筆のきっかけです。 「他人の男」を奪う恋愛を繰り返してきた40代の女性や、幸せな家庭生活を営んでいたのに《PTA不倫》に走ってしまう50代の女性。「事実は小説より奇なり」じゃないですが、ナマの話はどれも非常に興味深いものでした。 なかでも印象に残ったのは、生身の男性より「推し」を選んだ53歳の女性です。「恋愛・結婚・出産が女の幸せ」と言われていた時代だったら、変わり者扱いされるし、生活も苦しかったでしょう。 しかし、価値観が多様化し、また女性も働いて経済力を手にした現在ならば、いわゆる「女の幸せ」ではなく、「自分の見つけた自分の幸せ」を選ぶ生き方も大いにアリだと共感することができたのです。 また、がんを患い「余命1年」と宣告されたときに、夫と浮気相手に復讐することを決意した74歳の女性の話もあっぱれでした。もし同じ立場に置かれたら、私も絶対にそうするだろうな(笑)。 死が間近に迫ったからといって、《いい人》になる必要なんて全然ない。最後までジタバタしてもがくのが生きるということだと思うので、彼女のやり方には思わず一票を投じたくなりました。