フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第8回】フェラーリのブランディング戦略
敬虔なファンだけにデリバリーされたF50
フェラーリにはマーケティングの天才がいた。創始者であるエンツォ・フェラーリである。そう、彼は実に賢明なマーケティングマンであった。フェラーリはとことん非日常的なクルマでなければいけないと彼は考えたから、彼は「欲しがる客の数より1台少なく作れ」と家訓のように言い続けていたという。つまり、手に入れそこなった顧客はさらに熱心に次モデルを欲すはずであり、そういったエピソードすら独り歩きして神話となってくれると考えたのだ。 モンテゼーモロは、エンツォの神格化を上手く活用した。このエンツォが語っていたというマーケティング理論は、モンテゼーモロの口からも幾度となく語られた。スペチアーレのオーダーに際しては、綿密に顧客を管理するという戦略を明確にした。 集まってきた世界各国からのオーダーを元に、誰にデリバリーするか本国マラネッロが判断するとした。だからモンテゼーモロが采配を振ったF50においては、F40のような事態にはならなかった。ご存知のように、F50は349台限定という生産台数がアナウンスされ、敬虔なフェラーリファンは自分にデリバリー権が来ることを祈ったのだった。
顧客を「差別」するブランディング
さらに徹底的に顧客を「差別」した。そう、フェラーリへのロイヤリティの高い顧客だけに徹底的なサービスを行うのだ。国際モーターショーのスタンドではそういった顧客だけが優先して招き入れられ、ていねいなアテンドを受けることができるのも一例であり、マラネッロの工場見学も特別なオーナーだけの特権である。 こういった戦略は普通のブランドで行うことは難しいであろう。ラグジュアリー・ブランド以外が行うなら、それは不平等というネガティブな評価以外のなにものでもなくなってしまうからだ。
3つのキーワード
ブランディング確率には3つのキーワードがあると筆者は常々考えている。 ◆1. 独自性と持続性 単に新しい技術を導入するということだけでなく、ブランドとしての拘りを10年、15年先にも陳腐化しないで持ち続けられるかがキーだ。フェラーリにはエンジニアリングやスタイリングなどクルマ自体に独自性があるのはもちろんのこと、モータースポーツのためのブランドというDNAを明確に保持している。そのひとつはF1への挑戦であり、創業から現在に至るまで頑なに挑戦し続けている。4ドアモデルにしても創業から75年を経てようやく限られた台数だけが作られるという、ブランドDNAへのこだわりが明確だ。 ◆2.希少性 顧客の満足度をさらに高め、ブランドの価値を上げるための戦略として、限られた数だけを流通させる。前述したように年間生産台数への考え方を巡って「政権交代」が起きるほど、フェラーリにとっては重要なテーマであり、今なお需要を上回る供給がないようにコントロールされている。 ◆3.伝説 (ストーリー) 広告宣伝費を掛けて幅広く認知させるのではなく、本当に関心のある者だけに響くブランドのストーリーを確立する。そこでは、なによりもその歴史が重要視されている。創立記念などのアニバーサリーはお金に糸目を付けずに、それを祝福するイベントを開催しコアなファンたちと共有する。創業当時の趣が残されたマラネッロ本社のオールドファクトリー・エリアのファクトリー・ツアーにおける訪問は、オーナーたちに向けてフェラーリ神話を感じさせる儀式である。 まさにブランディングへのこだわりが、フェラーリほど徹底している自動車メーカーは存在しないといっても過言ではない。