チケットなどの“買い占め・転売”にいそしむ「スクレイパーbot」と、検知技術の戦い
自動実行プログラム、botが社会にもたらす影響の実態を追ったITmedia NEWSでの拙著の連載、「迷惑bot事件簿」を2019年に休止してから、かれこれ5年が経った。残念ながら、人気の商品やチケットの高額転売を企図して買い占めを行うbotは、日本だけでなく世界中でいまだ暗躍を続けている。 巧妙さレベルに基づく悪性botの分布 (合計100%にならないのは四捨五入値のため) 5年をへたWebを取り巻く環境の変化の中、さらに巧妙さを増したスクレイパーと呼ばれるbotの実態と、それを検知する最新テクノロジーとの戦いの場で、いま何が起きているかを見ていこう。
チケットの高額転売は根絶されたか?
botによる買い占めによって最も大きな被害を受けているのが、転売の対象として狙われやすい人気の商品やチケットの販売を取り扱っているサイトだ。 例えば、日本を含む世界中の航空会社のサイトには、チケットの予約を行うbotが押し寄せて、各社の悩みの種となっている。“転売ヤー”の操るbotは、複数のアカウントを使い、航空会社のセール開始時刻にあわせて空き座席やプレミアのつきそうな座席を一斉に抑えてしまう。 予約した座席のチケットはオークションサイトなどで高額転売し、航空会社のキャンセル費用が発生する期限ギリギリに売れ残り席を大量にキャンセルする。その結果、航空会社は空き座席の多い状態で飛行機を飛ばすことになり、大きな損失を被ってしまう。サイトにいつアクセスしても正規の価格で座席予約がとれない一般消費者も不利益を被ることになる。 一方、ライブや演劇、スポーツなどのイベントチケット販売についてはどうだろう。国内では、2019年6月に「施行特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(チケット不正転売禁止法)が施行され、日時と場所、入場資格者か座席が指定されており、不正転売の禁止が明記されたチケット(電子チケットを含む)「特定興行入場券」が流通するようになった。 法律施行後、botを操ってチケットを買い占めていた主な転売サイトが閉鎖され、表だったイベントチケットの不正転売は終息したかのように見える。しかし実際には表面上見えなくなっただけで、SNSやメッセージアプリを通して勧誘やチケットの取引が行われている。 法の成立に伴い、イベント会場でも入場時に本人確認が行われることが多くなり、仕組み上は他人にチケットを譲渡しても利用できないはずだ。しかしその監視の目をすり抜ける形で、転売チケットを使って良席を確保する手口が巧妙になっている。 それを可能にしているのは、本人確認を突破するために、転売などを利用して良席を含むチケットを複数確保しておくといった「コストを掛けた過度な“推し活”」。その結果、チケット販売上は満席にもかかわらず、後方の席はいつも空きの目立つ状態となる現象がしばしば起きているようだ。