「これ平面なんだ」「吸い込まれそう」SNSで注目の壁画 作品に込めた〝しかけ〟で「絵画を拡張したい」
平面に奥行きや凹凸・影を描く手法で、アート愛好者にとどまらず、多くの人に注目されているアーティスト・吉野ももさん。SNSで話題になった地方の雑居ビルの壁画について、思いや制作の背景を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎) 【画像】違法風俗店だった建物の壁画、「道行く人が二度見」するブロック屏のしかけ…吉野さんの作品群
連綿と続く文化の歴史を照らす
雑居ビルに描かれた壁画が、9月にX(旧Twitter)で大きな注目を集めました。作品を見かけた人が、写真を撮影して投稿。「これ平面なんだ」「吸い込まれそう」などの感想が寄せられ、1.5万いいねを集め、600万回以上表示されました。 この壁画は「アートプロジェクト高崎2020」のために制作された「Enlighten a city through History」という作品。作者は現代美術家の吉野ももさんで、平面に奥行きや凹凸、影を描くなど、視覚的なしかけを施す作品で注目される、気鋭のアーティストです。 「アートプロジェクト高崎」は2015年から毎年、群馬県高崎市の市街地で主に屋外にて開催されるアートの展覧会。当初、事務局からいくつか制作場所の候補を提案された中には、この雑居ビルの壁はなかったそうです。後に追加され、吉野さんの目に留まりました。 「このような壁画の作品は、キャンバスに当たるビル自体が『いずれ取り壊しが決まっている』という場合が多いです。だからこんなに大きなところに絵を描かせていただけました」と吉野さん。隣は駐車場で、以前は別の建物があったそうです。 「絵が通りかかった方によく見えること、また、この壁はそれまで何十年も露出していなかったものなので、そのように日の目を見なかった場所に絵を描けるということも魅力でした」 窓の多い雑居ビルの壁。よく見ると、実は配管も無数にありました。「私の制作は、周りの環境と干渉し合うことを狙っています。今ある特徴を絵の中に取り込むということをしたいと考え、窓のある状況と、かつこの配管の形も生かすことを考えて、最終的に決まったのがこの図案でした」と話します。 「高崎には私の所属するギャラリーrin art associationもありますし、昔から古墳がたくさんあったり、現在も音楽に力を入れていたりして、芸術・文化が厚い印象で、かつ、ターミナル駅である街は明るくて都会です。そこで、歴史が連綿と今へと続いていき、ライトがこれまでの街を照らしていくようなイメージで制作しました」